「日本の高級魚事典」藤原昌髙氏

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 イサザ、カイワリ、キューセン、ホンモロコ──。一体これらは何かご存じか。実は、すべて“めちゃくちゃうまい”高級魚である。

「かつて国内で水揚げされる高級魚というと50種くらいでしたが、現在は厳選しても130種以上あります。地方だけで食べられていたものや、最近、取れるようになったものまで、とにかく今は魚の種類が増えているんです。水産のプロだけでなく、家庭の食卓を預かる主婦(夫)の人にも知ってほしいとの思いから、私の持つ知識・情報を詰め込みました」

■厳選137種の生態からおすすめの食べ方まで

 本書は、水産のプロたちが頼りにするウェブサイト「市場魚貝類図鑑」を運営する著者による、日本の高級魚137種を紹介した事典。本書でいう高級魚の定義は、1キロ2000円以上のもので、さらに明治以前より全国的だったものは「伝統的高級魚」、1980年以前からの高値は「古参」、2000年前後から高値は「新参」、東日本だけなどの「地域的」、市町村単位の「地域限定」の5つに分けている。

 といっても学術的な堅苦しさはなく、ア行からヤ行まで順番に1魚に1ページを割いて、歴史や生態、味わい、おすすめの食べ方までたっぷり紹介した実用的サカナ読み物だ。

「40年にわたり、全国の市場や港を見て回ってきましたが、高級魚のピラミッドは時代と共に変化しています。たとえば、かつて高級魚のトップにいたのはタイ、ヒラメ。淡泊で上品な味が好まれていたんですね。それが70年代、小笠原諸島、沖縄返還で亜熱帯地域の魚が手に入るようになると、脂嗜好が強まりました。その影響で中価格魚だったキンキ(キチジ)やギンダラなどが値を上げ始め、本マグロは赤身ではなく、中トロ、トロの時代に。そして今、高級魚のトップはメイチダイなどフエダイ科です。鹿児島でキロ2万5000円を超えました」

 近年、人気のノドグロは実は新参。おいしい魚ではあるが、石川、島根などのローカルな魚だった。それが2000年ごろに急浮上。テニスの錦織選手が「帰国したら食べたい」と言ったことが大きく影響したという。

「築地市場の若い者が、わざわざ金沢にノドグロを食べに行ったって言うんです。東京ではそれをアカムツと呼んで身近にあるっていうのに(笑)。種名ではなく地方名で認知度を上げたパターンですね」

 センネンダイもネーミングで全国区的高級魚になった一つだ。沖縄で祝い膳に使われ、「みみじゃー」と呼ばれていた。それを種名、さらに「千年鯛」と漢字で書くようにしたことで近年、大ヒット。実はこれ、著者の仕掛けだという。反対に、「アブラボウズ」はクエに勝る味なのに、名前が残念なため人気は小田原限定だ。

「昔は高級魚になるのに何十年もかかりましたが、ネット時代の現代は一日で高級魚になり得ます。珍しい魚には好奇心からパッと値がつき、誰かの発信からブームが起きたりする。ネーミングの妙もあります。おいしいだけが高級魚になる唯一の条件ではなくなっているんです」

 長年、高級魚の変遷を見てきた著者はもう一つ気づいたことがある。それが温暖化だ。

「最初に温暖化を実感したのは80年代。千葉県にいないはずのセンニンフグが水揚げされたんです。90年代に入ると、おかしい、と思うことが増えました。定番の魚が取れなくなったり、温帯地域で生息するイワシが釧路で取れるように。顕著なのは、北海道でアナゴが取れるようになったこと。水揚げの魚の量は減っているけど種類が増えているのは明らかに温暖化のせいです。そうした中で、私たちは早急に選択的な魚食を止める必要があると思いますね。食習慣のなかった魚も知って食べるようになれば、サステナブルです。料理方法は本書でたっぷり紹介していますから、ぜひ参考にしてみてください」

 一家に一冊あると便利だ。

(三賢社 1980円)

▽ふじわら・まさたか 徳島県生まれ。ヒトと水産生物との関わりを40余年にわたり調査。ウェブサイト「ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑」主宰。同サイトのページビューは月間200万にのぼる。著書に「からだにおいしい魚の便利帳」「すし図鑑」「美味しいマイナー魚介図鑑」など。

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