「フィンランド 幸せのメソッド」堀内都喜子氏

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 国民のおよそ8割が税金を納めることに満足し、8割の人が税金の恩恵を感じている……。もちろんこれは日本の話ではない。福祉国家として名高いフィンランドの税務署による2021年の調査データだ。

「税金は取られるものの、フィンランドの人々は学費無料をはじめとするさまざまな恩恵を受けて育ち、老後も含めて手厚い公的ケアが用意されています。そのため多額の貯金をする必要性も低い。福祉国家への信頼もあり、納税で社会に富を再配分しようという気持ちも強いんです」

“税金ばかり高くなって”というボヤキが止まらない日本とは大変な違いだ。本書は、世界幸福度ランキングで5年連続1位に君臨し続けるフィンランドの驚きの“仕組み”について紹介。閉塞した日本が学ぶべき、幸せな暮らしのためのヒントがふんだんに盛り込まれている。

 フィンランドは男女平等が進んでおり、「ジェンダーギャップ指数」では156カ国中第2位に輝いている。ちなみに日本は120位。先進国の中でも最低レベルだ。

「フィンランドには『平等法』という法律があり、30人以上の企業は職場環境や給与、仕事内容などについて男女平等に関する行動計画を提出する必要があります。また扶養控除や配偶者控除が撤廃され、女性が補助的な労働者になることを固定化するような制度もありません。男女にかかわらずフルタイムで仕事をすることが当たり前の環境が整えられているんですね」

 共働きを支える制度も充実している。最大約9週間の「父親休暇」は、母親の出産直後と、母親が仕事復帰した後に分けて取得されるパターンが多い。現在の取得率はおよそ80%という高さだ。

「このような話をすると、日本の方から『男性はそれで満足なのか』と聞かれることがあります。しかし、私の見る限りフィンランドでは『女性が稼いでくれれば、僕の負担も軽くなる』『母親と同じぐらいの存在感を持っていたい』と語る男性のほうが目立ちますね」

■若者に仕事を任せ、年長者はそれを見守る文化

 男女平等もさることながら、若い世代が活躍しているのもフィンランドの特徴だ。現在、国会議員の平均年齢は40代半ば。企業で5年の経験があればベテランの部類に入ってくる。30代で頭取や取締役、学校の校長を務めることも珍しくない。

「年功序列はさほど重視されず、柔軟で新しいことに敏感な若い人に仕事を任せ、年長者はそれを見守り支える側に立つ文化があります。近年では学生主体のスタートアップイベントが盛況で、起業ブームの象徴となっています。その後押しをしているのが、政府からの支援と失敗に寛容な社会だと感じますね」

 フィンランドにはスタートアップ手当があり、起業を目指す人は最長12カ月、1カ月換算で最高約770ユーロ(約9万円)の支援を受けることができる。起業にはリスクも伴うが、失敗しても最後は国が面倒を見てくれるという福祉国家への信頼があり、起業へ向けて若い世代の背中を押している。

「フィンランドには『人こそが資源』という考えが根付いています。人口550万人ほどの小さな国で、豊富な天然資源があるわけでもない。だからこそ、人に投資し能力を発揮できる社会にしなければならないということです。しかし、昔からそうだったわけではなくて、国民が声を上げて政治や制度を変えてきた戦いの歴史の結果でもあるんですよ」

 少子高齢化が進み、衰退の道をたどりつつある日本。世界一幸福な国から、学ぶべきことが多そうだ。

(集英社 946円)

▽ほりうち・ときこ 長野県生まれ。日本語教師などを経てフィンランド・ユヴァスキュラ大学大学院に留学し、修士号を取得。フィンランド系企業での勤務を経てフィンランド大使館で広報の仕事に携わる。著書に「フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか」「フィンランド 豊かさのメソッド」などがある。

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