「こんなに変わった理科教科書」左巻健男氏

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 歴史の教科書が昔とは変わっているという話題はたびたび耳にするが、実は理科の教科書も時代を経て大きく変わっている。大人世代が習ってきたことをもう教えてなかったり、当たり前に使っていた用語が通用しなくなったりしているのだ。

「理科の学習には、人間が生きていくうえで知っておくべき基礎知識がふんだんに詰まっています。例えば、生命維持に不可欠な食物や空気、水の役割や仕組みは、基本的な科学知識があってこそ理解が深まるもの。最低限の科学知識があるからこそ防げている火事や感電などの事故もあります。しかし、時代によって理科の教科書は大きく変わり、子供には難解であるとか不要であるとして“厳選”されて切り捨てられ、体系的に学ぶ機会が失われているんです」

 著者は長年にわたり理科教育に携わり、教科書の編集委員や執筆者を務めてきた経歴を持つ。本書では、戦後の理科教育をおよそ10年ごと7つの時代に分け、教科書の変化を追いながらその課題をあぶり出していく。

■カエルの解剖はNGでイカに変更!?

 理科で一番インパクトのあった授業と言えば解剖実験を挙げる人が多いだろう。実際、受験戦争や詰め込み教育などの問題により広義のゆとり教育が開始された1980年代の「学習内容精選開始時代」までは、学校でカエルの解剖がよく行われていた。心臓の動き、胃や腸のつながり、筋肉の様子などを興味津々で観察したものだ。

「解剖はインパクトが強い分、学びも多い実験です。しかし、狭義のゆとり教育が開始され教科書の内容をどんどん減らした2000年代の『厳選とゆとり教育の時代』には、カエルの解剖について教科書への掲載が激減しました。準備や後片付けが大変であること、動物愛護の立場からの反対も理由でしょう。教科書の扱いが小さくなれば、実験の実施率も低下する。子供たちは、教科書の解剖図を眺めるだけで動物の体のつくりを知ったつもりになってしまいます」

 ゆとり教育のマイナス面が大きな問題になり、2010年代に入ると一転「理科教育充実の時代」となる。そして現在の教科書にはイカの解剖が掲載され、授業でもイカの解剖がよく行われるようになっているという。振り回される子供と学校現場ばかりが気の毒だ。

 高度な放射能・放射線についても学んでいた1960年代の「系統学習の時代」。ゆとり教育の時代に消滅し再び復活した「元素の周期表」など、理科教育のさまざまな変化を知ることができる本書。学習指導要領や教科書検定の問題点などにも触れながら、理科教育の重要性を説いていく。

「日本の小学校教育の大問題は、1990年代の『個性化・多様化さらなる精選の時代』に1・2年生の理科と社会科を廃止し『生活科』を新設したことだと思います。生活科教科書にはしつけ的な内容が目立ち、ものづづくりや植物を育てる自然体験などを通して科学性を育成する教科ではありません。諸外国では科学的な知識の土台となる“体験”を重視し低学年からの理科教育を充実させているのに、日本は逆行しています」

 巷にはびこるエセ科学にだまされない知識や思考能力を育てるためにも、理科教育の充実が不可欠だ。

「学習指導要領に縛られない理科の検定外教科書などを家庭で購入し、お子さんと一緒に読んでみるのもいいかもしれませんね。理科好きは大人も子供も好奇心旺盛なもの。未知への探究心を育てることは、生きていくうえでの武器となるはずです」

(筑摩書房 902円)

▽さまき・たけお 1949年、栃木県生まれ。千葉大学教育学部卒業。東京学芸大学大学院教育学研究科修士課程修了。専門は理科教育、科学コミュニケーション。東京大学教育学部付属中高教諭、法政大学教授などを経て大人の理科雑誌「理科の探検」編集長。「中学生にもわかる化学史」「世界史は化学でできている─絶対に面白い化学入門」など著書多数。

【連載】著者インタビュー

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