著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「プリンシパル」長浦京著

公開日: 更新日:

 すごいなあ。読み始めたらやめられない。迫力満点のやくざ小説だ。第2次大戦直後の東京を舞台に、4代目水嶽本家の一人娘、綾女の波乱の半生を描く長編である。

 綾女が水嶽本家を継ぐことになったことには理由がある。長男麟太郎と三男康三郎はまだ戦地から帰らず、次男桂次郎は精神が不安定で療養中。4代目水嶽の血を継ぐ孫はいるものの、まだ幼く、女の身ながら綾女が継ぐのがいちばん自然。というわけで、その役目がこのヒロインにまわってくる。ここから戦後の動乱を生き抜くヒロインの孤軍奮闘の濃厚なドラマが始まっていく。

 吉田茂や鳩山一郎などをモデルにしたと思われる人物も出てきて、そこにアメリカ軍部やGHQも絡んでくるから興趣がつきない。あの動乱期の裏側で、本当にこんなことがあったのではないかという気になる戦後裏面史が語られるのだ。いやあ、すごいすごい。つまり、やくざ小説という衣装の下に眠るのは、戦後の日本を食い物にする政治家やGHQなどの利権をめぐる暗闘なのである。

 強烈な個性を持ったわき役たちが次々に現れるのも素晴らしいし、暗躍する裏切り者たちとの戦いにも目が離せない。そして、なによりも迫力満点のアクションの連続がすごい。息つく間がないのだ。

 長浦京は2012年のデビューから11年間で6作しか書いていない作家だが、本書は最高傑作だと思う。

(新潮社 2310円)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    横浜とのFA交渉で引っ掛かった森祇晶監督の冷淡 落合博満さんは非通知着信で「探り」を入れてきた

  2. 2

    複雑なコードとリズムを世に広めた編曲 松任谷正隆の偉業

  3. 3

    中学受験で慶応普通部に進んだ石坂浩二も圧倒された「幼稚舎」組の生意気さ 大学時代に石井ふく子の目にとまる

  4. 4

    ドジャース内野手ベッツのWBC不参加は大谷翔平、佐々木朗希、山本由伸のレギュラーシーズンに追い風

  5. 5

    「年賀状じまい」宣言は失礼になる? SNS《正月早々、気分が悪い》の心理と伝え方の正解

  1. 6

    国宝級イケメンの松村北斗は転校した堀越高校から亜細亜大に進学 仕事と学業の両立をしっかり

  2. 7

    放送100年特集ドラマ「火星の女王」(NHK)はNetflixの向こうを貼るとんでもないSFドラマ

  3. 8

    維新のちょろまかし「国保逃れ」疑惑が早くも炎上急拡大! 地方議会でも糾弾や追及の動き

  4. 9

    出家否定も 新木優子「幸福の科学」カミングアウトの波紋

  5. 10

    【京都府立鴨沂高校】という沢田研二の出身校の歩き方