著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「やっと訪れた春に」青山文平著

公開日: 更新日:

 青山文平は、異色の時代小説作家である。なぜ異色かというと、いつも何を始めるか、わからないからである。時代小説の場合、妙な言い方を許してもらえるなら、もう少し物語が安定しているケースが少なくないのだが(一般的な読者の時代小説観を逸脱しないと言い換えてもいい)、青山文平の場合、時代小説に対する私たちのそういうイメージを、いつも軽快にぶち破る。

 もうひとつの特徴は、謎解きを主にする作品が少なくないことだ。たとえば、2016年の「半席」は、「このミステリーがすごい! 2017年版」で4位にランクされたほど、ミステリー色の強い作品であった。

 この2つの特徴を頭に置いて読むと、本書はいかにも青山文平らしい作品といえるような気がしてならない。近習目付の長沢圭史が、藩主のお供のさなかに御城の壕になぜ落ちたのかという冒頭の謎はすぐに解かれるが(真相が明らかになると、まさか、そんなことが原因だったのか、と驚かれるに違いない)、青山文平の作品のプロローグにふさわしい魅力的な謎とも言えそうだ。

 そしてメインの謎は、極秘の使命を受けた3人のうち、最後の1人は誰なのか、ということで、この「いるかいないかもわからぬ1名」をめぐって展開する本書は、もはや時代小説というよりも、ミステリーと呼ぶべきかもしれない。青山文平の快作をぜひとも堪能されたい。 (祥伝社 1760円)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人がもしFA3連敗ならクビが飛ぶのは誰? 赤っ恥かかされた山口オーナーと阿部監督の怒りの矛先

  2. 2

    大山悠輔が“巨人を蹴った”本当の理由…東京で新居探し説、阪神に抱くトラウマ、条件格差があっても残留のまさか

  3. 3

    悠仁さまの筑波大付属高での成績は? 進学塾に寄せられた情報を総合すると…

  4. 4

    大山悠輔に続き石川柊太にも逃げられ…巨人がFA市場で嫌われる「まさかの理由」をFA当事者が明かす

  5. 5

    織田裕二がフジテレビと決別の衝撃…「踊る大捜査線」続編に出演せず、柳葉敏郎が単独主演

  1. 6

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 7

    ヤクルト村上宗隆と巨人岡本和真 メジャーはどちらを高く評価する? 識者、米スカウトが占う「リアルな数字」

  3. 8

    どうなる?「トリガー条項」…ガソリン補助金で6兆円も投じながら5000億円の税収減に難色の意味不明

  4. 9

    「天皇になられる方。誰かが注意しないと…」の声も出る悠仁さまの近況

  5. 10

    タイでマッサージ施術後の死亡者が相次ぐ…日本の整体やカイロプラクティック、リラクゼーションは大丈夫か?