「後悔と真実の色」貫井徳郎著

公開日: 更新日:

「後悔と真実の色」貫井徳郎著

 職業柄か、刑事ものには夫婦の関係がうまくいっていないという設定が多いように思える。そうした中で、本書に描かれる夫婦関係はひときわ危うく、主人公のひりひりした痛みが迫ってくる。

【あらすじ】西條輝司は警視庁捜査1課9係の主任。見た目は若いが37歳。仲間内から“名探偵”と呼ばれる腕利き刑事で、出世も早く一目置かれているエリートだ。本人は出世に全く興味はなく、ひたすら事件解決に心血を注ぐのだが、周囲にはそんな西條を妬む者も多い。

 妻と娘がいるが、もう何年も前から妻の秋穂とは冷え切ったまま。その空白を埋めるように美叡という25歳の女性と関係を持っていた。美叡の部屋でくつろいでいるところに、東京・神楽坂近辺の空き地で若い女性が刺殺されたとの報が入った。全身をめった刺しにされた上に右手の人さし指が持ち去られていた。

 すぐに地元の牛込署に特別捜査本部が設置され、西條も参加し、事件の第一報を受けた交番勤務の大崎とコンビを組むことに。

 だが、その捜査本部には西條に激しい憎悪を投げかける綿引という機動捜査隊員もいた。嫌な予感がする中、解決の糸口がつかめないまま第2、第3の犯行が起こる。どちらも人さし指が切り取られていた。

 捜査本部は秘匿事項としていたが、どこからか情報が漏れ、ネットでは“指蒐集家”として騒がれていた。さらには犯人から殺人予告が寄せられるなど事件はエスカレートしていく。西條は持ち前の推理力をもって捜査していくが、あることによって奈落の底へ突き落とされてしまう……。

【読みどころ】西條と妻をはじめとするさまざまな感情のぶつかり合いが交錯しながら、その結果起こる予期せぬ運命が見事に描かれる。山本周五郎賞受賞の出色の警察小説。 〈石〉

(幻冬舎 1023円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    新生阿部巨人は早くも道険し…「疑問残る」コーチ人事にOBが痛烈批判

  2. 2

    阿部巨人V逸の責任を取るのは二岡ヘッドだけか…杉内投手チーフコーチの手腕にも疑問の声

  3. 3

    阪神「次の二軍監督」候補に挙がる2人の大物OB…人選の大前提は“藤川野球”にマッチすること

  4. 4

    阪神・大山を“逆シリーズ男”にしたソフトバンクの秘策…開幕前から丸裸、ようやく初安打・初打点

  5. 5

    巨人桑田二軍監督の“排除”に「原前監督が動いた説」浮上…事実上のクビは必然だった

  1. 6

    創価学会OB長井秀和氏が明かす芸能人チーム「芸術部」の正体…政界、芸能界で蠢く売れっ子たち

  2. 7

    阪神の日本シリーズ敗退は藤川監督の“自滅”だった…自軍にまで「情報隠し」で選手負担激増の本末転倒

  3. 8

    大谷翔平の来春WBC「二刀流封印」に現実味…ドジャース首脳陣が危機感募らすワールドシリーズの深刻疲労

  4. 9

    大死闘のワールドシリーズにかすむ日本シリーズ「見る気しない」の声続出…日米頂上決戦めぐる彼我の差

  5. 10

    ソフトB柳田悠岐が明かす阪神・佐藤輝明の“最大の武器”…「自分より全然上ですよ」