「スクラップ・ライアー」幸村明良著

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「スクラップ・ライアー」幸村明良著

 なかなか口を割らない被疑者に自白させるのがうまい刑事は「落としの名人」といわれる。そこでは、相手が嘘をついているかどうかをいかに見抜けるかというのも重要な才能だ。しかし、肝心の刑事自身がとんでもない嘘つきだったら……。そんな奇想天外な設定で展開するのが本書。

【あらすじ】橘涼真巡査は福岡県警暴力団対策部に所属していた。生来虚言癖のある涼真は、ヤクザと協力関係を築くべくヤクザから情報を得て、対価として嘘の情報を流していた。

 ある日、その情報が嘘だとヤクザにばれ、報復のために付け狙われるようになる。一方、県警の監察課が涼真とヤクザの関係を疑い、依願退職寸前まで追い込まれる。結局、警察庁組織犯罪対策部特別調査室の捜査員として首の皮一枚つながることに。

 そこで待ち受けていたのは日本最大の暴力団、阿頼組への潜入捜査。阿頼組の2次団体、奏我組の若手ナンバーワン春日辰巳が最近中国マフィアと盛んに取引をしている。ついては、阿頼組5代目清山顕吾の娘で春日の恋人である清山紗香に接触してその取引の情報を探れという。

 涼真は立川諒という新しい戸籍を得て、紗香に接触する。だが、紗香は涼真が2人分の戸籍を有していることを知り、ばらされたくなければ自分にも新しい戸籍を作ってほしいと頼む。その理由を聞いても判然としない。ここから涼真と紗香の壮絶なだまし合いが始まるのだが、肝心の春日が殺されたことで事態は急変する……。

【読みどころ】紗香ばかりでなくヤクザや同僚の刑事相手に、次から次へと飛び出す涼真の嘘は芸術の域に達しており、その嘘によって間一髪で危機を切り抜けることも。破天荒な刑事を主人公に据えたユニークな警察小説。 〈石〉

(宝島社 790円)

【連載】文庫で読む 警察小説

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