「森のバルコニー」ジュリアン・グラック著 中島昭和訳

公開日: 更新日:

「森のバルコニー」ジュリアン・グラック著 中島昭和訳

 見習士官グランジュは、ファリーズ高地の監視哨に配属となった。ベルギー領アルデンヌの森の中に造られたトーチカのひとつで、低くかがんだ形のコンクリートの団塊である。彼らの任務は、工兵隊が退却しながら道路を爆破するので、その切断された箇所で身動きができなくなった戦車を破壊して、敵の動きを通報することだ。コンクリートの上を歩くと、鋲(びょう)を打った靴のかかとが音を立てる。

 ここで眠るのは、灰色の海を航海する帆船の甲板の上で寝ている船客のようだ。戦争は布告されたが、ここでの生活は農村の生活そのもので、司令部からの回状よりも、風雨や季節といったもののほうがはるかに重要なのだ。

 ナチス侵攻前、森の中で「猶予」の状態に置かれた兵士たちの不安が伝わってくる。

(文遊社 2750円)


最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    さすがチンピラ政党…維新「国保逃れ」脱法スキームが大炎上! 入手した“指南書”に書かれていること

  2. 2

    国民民主党の支持率ダダ下がりが止まらない…ついに野党第4党に転落、共産党にも抜かれそうな気配

  3. 3

    ドジャース「佐々木朗希放出」に現実味…2年連続サイ・ヤング賞左腕スクーバル獲得のトレード要員へ

  4. 4

    来秋ドラ1候補の高校BIG3は「全員直メジャー」の可能性…日本プロ野球経由は“遠回り”の認識広がる

  5. 5

    ギャラから解析する“TOKIOの絆” 国分太一コンプラ違反疑惑に松岡昌宏も城島茂も「共闘」

  1. 6

    国分太一問題で日テレの「城島&松岡に謝罪」に関係者が抱いた“違和感”

  2. 7

    小林薫&玉置浩二による唯一無二のハーモニー

  3. 8

    脆弱株価、利上げ報道で急落…これが高市経済無策への市場の反応だ

  4. 9

    「東京電力HD」はいまこそ仕掛けのタイミング 無配でも成長力が期待できる

  5. 10

    日本人選手で初めてサングラスとリストバンドを着用した、陰のファッションリーダー