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「中国軍、その本当の実力は」樋口譲次著

 急速な軍拡であっという間に米ロに次ぐ世界第3位の軍事大国になった中国。その真の実力は?

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「中国軍、その本当の実力は」樋口譲次著

 現在の中国軍の原型は国共内戦時代に毛沢東が率いた紅軍。当時から中国軍はソ連軍をモデルに組織化と増強を図ってきた。

 そのソ連軍の後継にあたるロシア軍がウクライナで苦戦している。ということは、と本書は問う。中国はどこまで脅威なのか? 確かに日台にとって脅威ではあるが、軍拡の道をひた走る中国軍が「本当に強い」のかは未知数だ。

 本書の著者は自衛隊で高射特科部隊など機関畑を歩いてきた元陸将。自衛隊幹部学校長だったこともあってか、説明が機能的でわかりやすい。

 例えば、現代の戦争ではこれまでにもましてプロパガンダが重要。中国では孫子の兵法を範にとった「三戦」すなわち「世論戦」「心理戦」「法律戦」という非軍事的手段が現代の戦争の要とされるが、おそらくこれはロシアが提唱した「ハイブリッド戦争」を中国式に翻案したもの。要は政治・外交・経済・文化などの分野と直接的な軍事活動を密接に不可分にする謀略戦が中ロの得意技なのだ。

 著者は、ウクライナにおけるロシアの動きを詳細に読み解きながら中国軍の実態と日本がとるべき対応は「専守防衛」から「積極防衛」へと転換すべきという。米軍との連携についても「わが国の防衛を全うするには、独自の攻撃力を保持しておくことが必要不可欠」とする。

 日本国民に対する“世論戦”の趣もありそうだ。

(国書刊行会 2640円)

「習近平の軍事戦略」浅野亮、土屋貴裕著

「習近平の軍事戦略」浅野亮、土屋貴裕著

 中国人民解放軍は国家ではなく中国共産党の軍隊。それゆえ、共産党を掌握する習近平は中国軍を直接の支配下に置いていることになる。

 本書は、組織論的アプローチで「共産党の軍隊」としての中国軍の性格がどう強化されてきたかを解き明かす。イデオロギーだけでなく、人事や財務などの仕組みが詳細に分析されるのが特徴だ。

 また、ハイブリッド戦争の時代にあって軍と民間の融合をどうするのかも課題。知能化戦争、グレーゾーン、ハイブリッド戦争、モザイク戦、情報化戦争、認知戦、超限戦、エコノミックステートクラフトなど新時代の戦争に特徴的な発想や概念も分析される。著者はともに安全保障論を軸に中国や米中関係を専門とする政治学者だ。

(芙蓉書房出版 2970円)

「完全シミュレーション台湾侵攻戦争」山下裕貴著

「完全シミュレーション台湾侵攻戦争」山下裕貴著

 巻頭、いきなり石垣島が中国軍の猛爆に遭い、さらに与那国島に駐留する自衛隊を侵攻した中国軍が圧倒するさまが生々しく描かれる。海自がトマホークミサイルで反撃し、中国海軍機が空対艦ミサイルで応戦する。

 シミュレーションにしてもリアルな設定を語る著者は陸自の第3師団長、陸上幕僚副長、中部方面総監を歴任した元陸将。単に軍事面だけでなく、台湾関係法をもとに米国がどこまで動くかなどの政治的判断、最も狭いところで140キロしか離れてない台湾海峡をめぐる地理的要因などに目を配る。中国は台湾に上陸した場合も物資の補給(兵站)に苦労するだろうという。

 しかし、著者は中国軍の実力をけっして侮らない。侵攻開始前に中国が仕掛ける警察無線を悪用したフェイク情報の流布など、実現したらと思うと背筋が寒くなるような話が次々に出てくる。

(講談社 990円)

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