「富豪に仕える」アリゼ・デルピエール著 ダコスタ吉村花子訳

公開日: 更新日:

「富豪に仕える」アリゼ・デルピエール著 ダコスタ吉村花子訳

 日本では昔のドラマなどに登場した「使用人」は、欧米のある階層の人たちにとっては、今でも当たり前の存在だという。本書は、社会学者の著者がフランスにおいて多数のフルタイムで働く使用人と、その雇用主である富豪たちへのインタビューを通し、労働問題を学術的に掘り下げたルポだ。

 13歳のときにパリにやってきたマリ出身のファトゥーは、レジ係を辞めフランス大貴族の流れをくむ一家で勤めるようになった。給料は悪くなく、時には雇用主からシルクのスカーフなどのプレゼントもある。住み込みなので一日中気の休まる間はなく自由時間もないが、使用人職を求める人の多くは、ファトゥーのようにさまざまな特典を得られる富豪のもとで働くことを望むという。

 使用人のほとんどが女性であり、移民である。人種的ステレオタイプで判断され、名前を雇用主好みに変えられることもあるが「従順を演じる」と割り切る人は多い。

 一方、雇用主側にも苦労がないわけではない。富豪の仲間入りをするために使用人を雇うニューリッチや、使用人のいる生活に慣れず落ち着かないと心情を吐露する者もいる。

 親密さと搾取が同居する知られざる使用人の世界に驚くこと間違いなしだ。

(新評論 2420円)


【連載】木曜日は夜ふかし本

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    アッと驚く自公「連立解消」…突っぱねた高市自民も離脱する斉藤公明も勝算なしの結末

  2. 2

    クマが各地で大暴れ、旅ロケ番組がてんてこ舞い…「ポツンと一軒家」も現場はピリピリ

  3. 3

    「えげつないことも平気で…」“悪の帝国”ドジャースの驚愕すべき強さの秘密

  4. 4

    安倍元首相銃撃裁判 審理前から山上徹也被告の判決日が決まっている理由

  5. 5

    ドジャース大谷翔平が直面する米国人の「差別的敵愾心」…米野球専門誌はMVPに選ばず

  1. 6

    マツコ・デラックスがSMAP木村拓哉と顔を合わせた千葉県立犢橋高校とは? かつて牧場だった場所に…

  2. 7

    自民党は戦々恐々…公明党「連立離脱」なら次の衆院選で93人が落選危機

  3. 8

    今オフ日本史上最多5人がメジャー挑戦!阪神才木は“藤川監督が後押し”、西武Wエースにヤクルト村上、巨人岡本まで

  4. 9

    万博協会も大阪府も元請けも「詐欺師」…パビリオン工事費未払い被害者が実名告発

  5. 10

    ドジャース佐々木朗希の抑え起用に太鼓判も…上原浩治氏と橋本清氏が口を揃える「不安要素」