著者のコラム一覧
井上理津子ノンフィクションライター

1955年、奈良県生まれ。「さいごの色街 飛田」「葬送の仕事師たち」といった性や死がテーマのノンフィクションのほか、日刊ゲンダイ連載から「すごい古書店 変な図書館」も。近著に「絶滅危惧個人商店」「師弟百景」。

BOOKS&COFFEE AMIS(エイミス)(神奈川・横須賀)

公開日: 更新日:

 どうよ、というくらいの急坂を上って、1つ目の信号を右折。ほんの少し歩いた右手にふんわりかかる、土色の日よけテントが目印だ。「なかなかの本屋さんを見つけた」と知人に聞いてやって来たが、その「なかなか」の意味が徐々に分かってくる面白さたるや。

「古書・ビジュアル洋書販売」とある。

「青山ブックセンターに勤めてたからさ」と、洒落た黒い帽子を着用の店主、稲葉恵一さん(72)が笑顔を見せる。六本木店の店長時代に、マイケル・ジャクソンが来店して大量に買っていった、坂本龍一が深夜にピアノを弾きにきたといったエピソードをまず聞き、「へ~」と何度も。ともあれ都内から母の近くへと13年前に横須賀へ移り、この店を開いて9年目。

「この町にやっと馴染めてきたよー」

 店頭でフィンランドの絵本、87年の「Switch」、ジャニス・ジョプリンが激しく歌う写真が表紙の本と目が合った後、面陳列の「パリのすてきなおじさん」、その横の「ペイネ 愛の本」に手がのびる。ようやく28平方メートルの店内に入ろうとすると、足元に「丸山眞男集全16巻」が積まれている。全て稲葉さんの個人アンテナに引っかかった本だろうなとピンとくる。

「洋書は友達がやってる輸入業者から。古本は僕が持っていたものも多いんだけど、新刊と古本をまぜて思い通りの棚ができたら、お客さんが足を止め、買ってくれる。面白いのよ、本屋は」と、グレゴリオ聖歌をBGMに、稲葉さん、話す話す。

「これなんかさあ」と手に取り説明してくれた本を列挙すると、アガサ・クリスティの「ABC殺人事件」と往時の「ABC鉄道案内(時刻表)」、木村伊兵衛が昭和18年に満鉄に招待されて中国に渡って現地の人や風物を撮影した「王道楽土」(ARS刊)、稲葉さんが「100回以上見た」という映画「鬼火」(ルイ・マル監督)パンフレット、それにアイルランド文学の数々……。値付けが、どれもこれも相場より相当安いもよう。

「昨日、ふらっと入ってきた若い女の子が鶴見俊輔を10冊買っていったんだ。気が抜けないんだ」

 店内の小さなカフェで酵素ジュースをいただきながら、そんな話も聞いた。

◆横須賀市上町1-41/京急本線横須賀中央駅西口から徒歩6分/10~18時半、月曜休み

わたしの推し本

PORTOBELLO ROAD」John Petty著

「僕が1980年に1年間ロンドンへ遊びに行ったとき、足しげく通った『エレクトリック・シネマ』もあり、『ノッティングヒルの恋人』の舞台でもある、賑やかなポートベロー・ロードの60年代の姿を写した、中古ではない輸入写真集です。露天の本屋で人々が見入っていたり、骨董品屋の主がのびやかだったり。この通りに魅せられた写真家・John Pettyさんが3年間シャッターを押し続けた中からセレクトされています」

(Acc Art Books 1980円)

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