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井上理津子ノンフィクションライター

1955年、奈良県生まれ。「さいごの色街 飛田」「葬送の仕事師たち」といった性や死がテーマのノンフィクションのほか、日刊ゲンダイ連載から「すごい古書店 変な図書館」も。近著に「絶滅危惧個人商店」「師弟百景」。

toi books(大阪・本町)

公開日: 更新日:

 繊維問屋街の中心、「丼池ストリート」の古着屋やチャイ専門カフェなどが入居するレトロなビルの2階に、2019年4月、オープンした。土曜日の午後に伺ったところ、若い女性たちが1人、2人と吸い込まれていく。

「SNSで発信をしているのを見てくれている人たちが多いようです」と、店主の磯上竜也さん(36)。

 文芸書中心。店名の“toi”は、おもちゃの“toy”に通じるのかと思いきや、「“問い”です。読むと、答えだけじゃなくて、新たな問いを与えてくれる本」という意味とのこと。それは自分への問い? 社会への問い? 「両方ですね」

独特のキーワードが記された32のインデックス

 元は、著名書店「心斎橋アセンス」に勤務。同店は18年に閉店したが、同じ頃、磯上さんの生活圏の書店も相次いで閉店。他店に転職しても、いつ閉店するか分からない。「だったら自分で」と独立開業。5坪と狭いのは、「経営がキツくなったら、他の仕事をしたら支えられるサイズ感」を望んだからだそう。もっとも、開業以来その必要はないという。アッパレ。

 入り口に「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」「チワワ・シンドローム」など大前粟生の本を大きく展開。16年にデビューした新進気鋭の作家とのことで、入ってくる人が皆、足を止めているもよう。

 本屋さんに関する本、食やメンタルなど生活回りの本、韓国文学の本が並んでいる──と一巡。右手の棚にさしかかって、この店の真骨頂を見た。「不思議に触れる」「生きるということ」「季節の移ろい」「やがてくるその日」などと独特のキーワードが記された32のインデックスが。

「たとえば『近くて遠い、そんな関係』としたところには家族関係の本を並べていますが、『家族』と書くより、圧迫感が減るのでは? 家族に興味のない人にも見てほしいから」

 というわけで、「近くて遠い、そんな関係」棚からは、鷲田清一著「じぶん・この不思議な存在」、菅野仁著「友だち幻想」、いしいひさいち著「山田家の人びと」などが、私を手招きしているではないか。順に手に取り、しばし居座った。

◆大阪市中央区久太郎町3-1-22 OSKビル204号室/℡050・5359・4448/地下鉄御堂筋線・中央線本町駅から徒歩3分/12~19時、不定休

わたしの推し本

「ローベルト・ヴァルザー作品集1」ローベルト・ヴァルザー著、新本史斉、F・ヒンターエーダー・エムデ訳

「ローベルト・ヴァルザー(1878~1956年)は、ドイツ語で書くスイス人作家。私は、彼のほかの本を古本屋で見つけて読んで、刺さり、全5巻のこの作品集を読んだのですが、実に面白かった。<1>の主人公は、生きるということに意味を付与しない男。ありていに言うとちゃらんぽらんで、それがいいんですよね。書店に行って、いきなり『ここで働かせてほしい』と言ったりします。ぜひお読みください」

(鳥影社・ロゴス企画部 2860円)

【連載】本屋はワンダーランドだ!

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