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嶺里俊介作家

1964年、東京都生まれ。学習院大学法学部卒。2015年「星宿る虫」で第19回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞し、デビュー。著書に「走馬灯症候群」「地棲魚」「地霊都市 東京第24特別区」「昭和怪談」ほか多数。

火付け役は貞子…社会現象になったホラー作品 ~「リング」「バトル・ロワイアル」~

公開日: 更新日:

貞子がテレビ画面から出てくるシーンは原作にはない?

 いまやジャパンホラーという言葉ができているほど、日本のホラー作品は海外でも認知されています。メディアミックスは必要不可欠だし、ホラー専門の雑誌やテレビ番組も珍しくありません。

 アニメーションとの親和性が高い漫画は、早々にメディアミックスが企画され、意識されるのが当たり前になっている。子ども時代に見た記憶に残っている作品は、そんなメディアミックスされた作品であることが多いでしょ。私だってそうです。『ど根性ガエル』や『ルパン三世』は、いまでも同世代の共通の話題になっていますからね。

 今回は、ホラージャンルで大ヒットした小説作品について。

 鈴木光司著『リング』。

 自分の姪を含む4人が怪死した事件を調査していた雑誌記者の主人公は、彼らが伊豆貸別荘に宿泊していたことから別荘を調べていると、そこでビデオデープを見つける。ビデオには断片的な不可解な映像と、最後に「7日後に死ぬ」と死の宣告があった──。

 ジャパンホラーの火付け役となった作品です。のちにシリーズ化されて映画やテレビに何度も登場しているので、みんな知っているよね。

 各種メディアを席巻して社会現象となり、テレビ画面から出てくる貞子の画像は、それだけで『リング』だと分かるほどメジャーになった。

 ただし、その場面から衝撃を受ける度合いは、世代によって異なるようだ。

 昭和50年代に子ども時代を過ごした世代にとっては、テレビ画面は創作作品では移動手段。『ナルニア国物語』の箪笥、『ドラえもん』の机の引き出し。水木しげるの『テレビくん』では、自在にテレビ画面に入っていく。

 つまり暗い部屋でテレビが点いたら、なにかが中から出てくると予想してしまう。

 貞子が出てくるところを、なぜ主人公たちが黙って見ているのかと。長髪の頭が出てきたら、なぜ中へ押し戻さないのかと思ってしまうのですよ。ここから押し相撲が始まるのだな、と考えたわけです。私だけなのかな。

 しかし創作作品ではテレビ画面が移動手段になりえると認識していない人にとっては衝撃だった。背筋が凍りつくほど怖気が走った。

 実は、この有名すぎる貞子のシーンは原作小説にはありません。小説は、ホラーというよりスリラー・サスペンス作品でした。

 私にとって、『リング』はテレビ版よりも映画版よりも、原作小説が最も怖い作品。偶然に降りかかったものに共通性を見出したのではなく、主人公が積極的に調べていくに従って整合性がとれていき、より怖いものが先に視えてしまう。

 調べれば調べるほど、より怖ろしい事実が浮き上がり、確証へと変貌する。

 先を想像する怖さ。これもまた、ホラーなのです。

 高見広春著『バトル・ロワイアル』。

 毎年政府がランダムに選んだ中学3年生のクラスが、隔離されたエリア内で殺し合いをする。優勝者には生涯生活保障が与えられる。

 コミカライズや映像化されるのみならず、スピンアウトと呼べる作品群が生まれました。これらの作品群を総称して『バトル・ロワイアル』と呼ぶこともあります。

 ちなみに著者である高見広春の作品は、現在に至るも本作のみです。映画作品のみならず、世界観を継承した続編や、オリジナルコミックが広く展開されて、多くの人に楽しまれたので記憶している方も多いことでしょう。

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