象印マホービン 市川典男社長(1)象のマークの秘密 商売人の兄と職人気質の弟で創業
魔法瓶といえば、ちゃぶ台の上に置かれた花柄の保温ポットを思い浮かべる人も多いだろう。高品質な家庭用品で世界へ羽ばたく象印マホービンの創業は1918年、第1次世界大戦後の大正デモクラシーと言われた時代だ。市川典男社長(67)が、同社の長い歴史を振り返る。
「当時の大阪は産業が栄えて『大大阪』と言われていました。その中でもガラスはいろんな製品の基幹産業で、その一つとして、電球が盛んに作られていました。それで祖父の弟は電球職人として働いていました。電球と魔法瓶は、ガラスで作って真空にするというところが同じです。祖父の弟は、電球作りの技術を使って、魔法瓶作りに挑戦したいと思ったそうです。両親から『一人では難しいだろうから、兄弟で頑張れ』と言われたこともあり、『市川兄弟商会』と看板を掲げたのが始まりです」
商売上手の兄が販売を、職人気質の弟が製造を担当していたそうだ。
「最初は中瓶だけを作っていました。外装は金属加工工場が作ります。問屋がその両方を買い、組み立てます。3社の分業で作るのが一般的でした。中瓶はガラスを手吹きで作るため、職人の力量によるところが大きく、しかも量産ができません。また、冬場は熱い湯がすぐに使えるのが便利ということでよく売れるのですが、夏場はさっぱり。季節による繁閑の差が大きい商売でした。祖父は『このままでは大きな発展はない』と、中瓶から外装、組み立てまで一貫して製造する体制を築きました」