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嶺里俊介作家

1964年、東京都生まれ。学習院大学法学部卒。2015年「星宿る虫」で第19回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞し、デビュー。著書に「走馬灯症候群」「地棲魚」「地霊都市 東京第24特別区」「昭和怪談」ほか多数。

語り継がれる民話 ~『遠野物語』~ ざしきわらしは怖ろしい存在でもあるのだ

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日本全国で確認された民話の数は、なんと約900!

 今回は日本の民話。伝承譚です。

 戦後の復興に伴い、ベビーブームを迎えて、子どもたちを楽しませるために全国各地に残る民話を掘り起こして後世に遺そうという動きが起きたのは昭和40年代のこと。明治大正生まれのおじいちゃんやおばあちゃんに昔話を実際に語っていただいて、各地で録音して書き起こされました。

 それまでは小泉八雲や柳田国男のように個人で収集し研究していたものでしたが、全国規模で民話がまとめられたのは初めてのことです。

 この動きに伴って新たに書き起こされた話や、似通った話もあるので、実際はもっと少ないのではと考える向きもありますが、そこは「言うは野暮」でしょう。

 集められた各地の民話は、注釈を加えて地方別にまとめられ、『日本の民話』(発行:ぎょうせい)全12巻として刊行されました。

 なにしろ各地の方言をそのままに書き起こしているので、原文ママだと意味不明。注釈がなければなにを言っているのか分かりません。しかし当時の方言が如実に記載されているので資料としても秀逸です。

 地方色も豊かで、北海道は民話というより唄になっているものが多い。まるで子守歌ですね。

 交通インフラも情報通信も整っていなかった時代の、各地で語り伝えられてきた話というのは土地の文化に通じています。もちろんそれぞれの地で生まれた独自のものだけではありません。旅の薬売りが、請われて面白い話を伝えて回ったものが多々あります。山から山へと流れるよりも、川や海沿いといった水の流れに沿って伝わる特徴があります。

 面白い話は残りやすく、同じ話が各地にある。桃太郎やさるかに合戦など、いたるところに伝承されているので、もうどこが発祥なのか分からない。現在では村おこしの意味もあって、同じ話でも「ウチがオリジナル」と唱える地が複数あるので混乱してしまいますね。

 1999年の時点で、日本全国で確認された民話の数は約900だそうです。

 民話には勧善懲悪や規範となる行動が織り込まれているのが特徴ですが、残酷でもあります。特に戒めるべき行為は強調されるので、顔をしかめてしまいたくなる場面もある。幼少時代の私などは、小さな雀の舌を切るなんて、と泣き出してしまった覚えがあるもの。

 現在では民話というより児童文学として『古典怪談傑作選』のようにまとめられることが多いですね。

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