ニッポン人は怠け者?

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「日本の会社員はなぜ『やる気』を失ったのか」渋谷和宏著

 かつて「働き蜂」とからかわれたほど勤勉だった日本人。ところが当節は?

  ◇  ◇  ◇

「日本の会社員はなぜ『やる気』を失ったのか」渋谷和宏著

 米ギャラップ社がおこなった世界比較で、「やる気のある社員」の割合はアメリカが32%に対して日本はなんと6%! 逆に「やる気のない社員」は70%に達したという。対象139カ国のうち「やる気のある」割合で日本は132位だったというのだ。

 別の仕事満足度調査でも、いまの仕事に「満足」と答えたのはインド89%、アメリカ78%、中国とイギリスが74%、ドイツ71%。日本は42%と他国を大きく下回ったという。当事者の日本人自身、これらの結果を「妥当」としたのがおよそ3人に2人だった。

 かつて日本人の勤勉ぶりと会社への忠誠心は群を抜いていた。「24時間働けますか」との自虐CMは、必ずしもギャグではなかったのだ。ところがいまや……。

 元日経の経済ジャーナリストである著者はこの理由を、日本が「安い賃金の国」になったこと。終身雇用をやめて「ジョブ型雇用」に切り替える中でノルマを強いる「脅しの経営」が増えたこと。そしてコストカット体質の強化に見る。

 なお、内閣府の「国民生活選好度調査」では、「仕事のやりがい」を「ある」と答えたのが1980年代前半では30%強。それが2008年には18.5%に激減していたという。内閣府はこの翌年から調査をやめてしまったが、まさかクサいものにフタをする小役人根性ではありませんよ、ね?

(平凡社 1045円)

「働かないニッポン」河合薫著

「働かないニッポン」河合薫著

 テレビに講演に雑誌と大活躍の著者。専門は健康社会学だそうだが、企業社会の働き方を絶妙の辛口でコメントする才人コラムニストだ。

 本書は帯に「働き損社会の影に“ジジイの壁”あり」と書かれてドキッとする向きもあるだろうが、中身はさらにビックリ。

 東京の20代半ばから30代半ばまでを対象とした調査では「できれば仕事はしたくない」が男女とも6割。しかも「最初から正社員」ほどやる気がなく、30代前半で年収711万円(平均)と高額にもかかわらず、今の職場は「やりがいがある」と答えたのは女性で3割、男性で27.5%と、エリートほどやる気がないというのだ。

 著者はこれを「組織社会化」の失敗と見る。チームの新顔に目標や方向性、組織の価値観などを浸透させてチームのよき一員とすること。そこに失敗している自覚もない旧世代の鈍感が最大の障害と著者は見る。「家族は社員」と豪語したはずの経営者が大規模リストラ。著者が理由を尋ねると「それが本人のためだからですよ」「親心ですね」とあっけらかんとしたもの。昭和の昔はこういう発想に社員はマゾヒズムで尽くしていたのだ。

 旧弊の象徴とされる終身雇用制だが、実はアメリカでもこれを取り入れて成功した例もあるという。単なる辛口にとどまらない自在な展開が読ませどころ。

(日経BP/日本経済新聞出版 990円)

「静かなリーダーが心理的安全性をつくる」川野いずみ著

「静かなリーダーが心理的安全性をつくる」川野いずみ著

 イケイケ、オラオラ型の熱血上司。昭和のドラマにはつきものだったが、いまや時代遅れ。本書は職場で「心理的安全性」を確保することが、業務の改善や効率アップにつながるという。

 その秘訣は「お互いを知る機会づくり」「もやもや・心配事の見える化」「個人とチームの振り返りによる成長支援」など。実は昭和の昔も飲みニケーションで実践されたことばかり。

 だが、時代が変われば味付けも変わる。特に女性が圧倒的に増えた職場であれば当たり前のことだろう。

 著者は信販会社などを顧客にシステム構築を業務とするIT企業で管理職。早くからキャリアマネジメントにも関心を持って国家資格なども取得したという。パイオニア世代ならではの苦労話を含め、著者自身の実感のこもる実例が多数並ぶ。

(クロスメディア・パブリッシング 1958円)

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