公開日: 更新日:

「日本の分断はどこにあるのか」池田謙一ほか編著

 意見の対立がすぐに分断になってしまう現代。実りある論争など、もはやこの世にはなくなってしまったのか。

  ◇  ◇  ◇

「日本の分断はどこにあるのか」池田謙一ほか編著

 分断が深刻化するアメリカは、「異なる政党を支持する人々の間での敵意が高まる」状態にある。「感情的分極化」と呼ばれるこの状態がフェイクニュース拡散の温床をつくり、政治の信頼性を低下させ、議会襲撃事件のような暴力を助長している。日本では憲法問題や日米安保を基準に「保守とリベラル」が決まるため、アメリカとはイデオロギーの質が違う。「政府の大きさ」や経済問題の影響はアメリカほどは大きくないのだ。

 本書はジャーナリストや政治学、メディア社会学などの専門家による本格的な論文集。オンラインニュース社と組んだ「スマートニュース・メディア価値観全国調査から検証する」(副題)だ。

 自分の国が間違った方向に進んでいるかという問いに「思う」との答えは、アメリカでは保守層に多く日本はリベラル層に多いなど、アメリカの分断の度合いは深刻。日本はまだましともいえようが、マスメディアへの信頼度が保革であまり差がないというのは今後急速に変わる可能性もあるだろう。日本の場合、アメリカ型の分断ではなく、政治に関わる者と無縁の者の間の分断がむしろ問題かもしれないとの指摘は鋭い。

(勁草書房 4290円)

「選挙との対話」荻上チキ編著

「選挙との対話」荻上チキ編著

「なぜ自民党は強いのか」「なぜ野党は勝てないのか」「なぜ女性の政治家が少ないのか」……。普通に誰もが抱く疑問をそれぞれ専門家たちが考察する。といっても専門書ではない。学問的な専門知識による分析を一般市民に広く共有してもらうことを念頭にした論集だ。

 まず、なぜ自民党は強いのか。答えは少ない得票で議席を獲得できる小選挙区制だから。しかも公明党との選挙協力、野党が候補者を一本化できない、組織票が強い、1票の格差が大きい非都市部で強い。これらの要因があわさって自民優位を形成しているわけだ。

 次に、女性政治家が少ない理由の分析では、アメリカのテレビドラマでの黒人や女性の大統領の描かれ方に対して、日本では有能ではあるが理想的でない、失敗すると感情的になるなどの描かれ方が多いという。

 装丁は中間色の多いソフトな外見だが、中身は数理モデルなどを駆使した先端的な研究をわかりやすく一般向けに紹介する。意欲的な試みだ。

(青弓社 1980円)

「私たちを分断するバイアス」キース・E・スタノヴィッチ著 北村英哉ほか訳

「私たちを分断するバイアス」キース・E・スタノヴィッチ著 北村英哉ほか訳

 本書の副題は「マイサイド思考の科学と政治」。人は誰しも自分の立場(マイサイド)にかなったバイアス(偏見)を持っている。専門的にいうと、自分の価値観を守るように「心理的に動機付け」されている。

 これだけ聞くと当たり前のようだが、実はその人間の認知能力、つまり知能とは関係がない。バイアスには「確証バイアス」「後知恵バイアス」「自己奉仕バイアス」などがある。それぞれ自分に都合のよい情報だけを集めようとするバイアス、物事を結果論で「やっぱりそうなったか」と考えるバイアス、そして成功すると自分の力、失敗すると自分以外の原因と考えるバイアスだ。

 しかしマイサイドバイアスはこれらとは違うと著者は言う。考えればわかるはず、常識的に考えてあり得ないなど、インテリほどこうした「信念」に振り回されがちなのだ。今日の分断社会を考えるときに有益な示唆がありそうだ。

(誠信書房 2970円)

【連載】本で読み解くNEWSの深層

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    高画質は必要ない? 民放各社が撤退検討と報じられた「BS4K」はなぜ失敗したのですか?

  2. 2

    「二股不倫」永野芽郁の“第3の男”か? 坂口健太郎の業界評…さらに「別の男」が出てくる可能性は

  3. 3

    気温50度の灼熱キャンプなのに「寒い」…中村武志さんは「死ぬかもしれん」と言った 

  4. 4

    U18日本代表がパナマ撃破で決勝進出!やっぱり横浜高はスゴかった

  5. 5

    坂口健太郎に永野芽郁との「過去の交際」発覚…“好感度俳優”イメージダウン避けられず

  1. 6

    大手家電量販店の創業家がトップに君臨する功罪…ビック、ノジマに続きヨドバシも下請法違反

  2. 7

    板野友美からますます遠ざかる“野球選手の良妻”イメージ…豪華自宅とセレブ妻ぶり猛烈アピール

  3. 8

    日本ハム・レイエスはどれだけ打っても「メジャー復帰絶望」のワケ

  4. 9

    広陵暴力問題の闇…名門大学の推薦取り消し相次ぎ、中井監督の母校・大商大が「落ち穂拾い」

  5. 10

    自民党総裁選の“本命”小泉進次郎氏に「不出馬説」が流れた背景