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「レイディ・ジャスティス」ダリア・リスウィック著 秋元由紀訳

 朝ドラ「虎に翼」の大ヒットを背景にか、フェミニズムの広がりと浸透がめざましい。

  ◇  ◇  ◇

「レイディ・ジャスティス」ダリア・リスウィック著 秋元由紀訳

 米トランプ政権によって任命された3人の米連邦最高裁判事が長年の判例を覆し、人工妊娠中絶を女性の「選ぶ権利」とする制度がアメリカで潰されつつある。本書はアメリカ史上、法曹界で自由と平等の実現のために闘った女性の法律家列伝。ただし、退屈な歴史の本ではない。

 2016年、連邦最高裁では、テキサスで合法的に人工妊娠中絶を行っていたクリニックを州政府が事実上閉鎖させたことを取り上げ、違憲判決を出した。ところが、同年の選挙でトランプが勝利し、その後、空席が出たところを指名した保守派の判事たちが正反対の流れをつくってしまったのだ。

 しかし女性の法律家たちはあきらめず、弁護士、官僚、社会活動家、地方政治家らの立場でトランプ流の抑圧と差別に抵抗する動きを継続した。トランプ支持の右翼がデモで悪名を流したシャーロッツビルで白人至上主義と法で闘った中年の女性弁護士の活躍などは血湧き肉躍る物語だ。

 著者自身、裁判所勤務の経験を持つジャーナリストとして、社会正義の意志を込めて本書を執筆したことが伝わってくる。

 トランプ再選がなったいま、彼女たちの闘いが再び始まる。

(勁草書房 3850円)

「挑戦するフェミニズム」上野千鶴子、江原由美子編

「挑戦するフェミニズム」上野千鶴子、江原由美子編

 働く既婚女性は増えたし、女性の大学進学率も上昇、政界や職場の管理職でも女性の比率は高まっている。しかし、まだ男女の平等は完全ではない。それはなぜか。単に時間の問題でないのは、米トランプ政権で起こった「中絶の権利」の法的後退や反フェミニズムの動きからもわかる。本書はこの問題を、20世紀末に始まったグローバリゼーションやネオリベラリズムとの関わりの中でとらえなおそうと試みる論文集。

 実は就業率や進学率の上昇などが本当に上がってきたころ、既に先進国では人件費の高騰などを背景に労働力の国外移転が進み、産業空洞化が起きていた。そこで生まれた男性の経済力の低下を、女性の社会進出が補った格好だ。

 つまり、フェミニズムは期せずしてグローバル化やネオリベ政策の片棒を担いでいたのかもしれないわけだ。しかも「キャリアの追求こそ男女平等への道」とする「個人主義的・エリート主義的フェミニズム」の競争主義は、格差拡大と女性の貧困化を見逃してきたとする批判もある。

 編者はともに日本の現代フェミニズム運動を牽引してきた大物。それに続く世代が活気ある議論を繰り広げている。

(有斐閣 3190円)

「家父長制の起源」アンジェラ・サイニー著 道本美穂訳

「家父長制の起源」アンジェラ・サイニー著 道本美穂訳

 家父長制というと昔ながらの男尊女卑や家制度ばかりではない。今では広い概念になり、医療の世界では「よかれと思って本人の同意なしにすること」も家父長制の行為になり、インフォームドコンセントに反することになるのだ。本書はその起源を広く追究する。

 一般にフェミニズムは19世紀のアメリカが始まりとされるが、巻頭の年表の始まりは何と人類誕生の1300万年前。実は、男支配は人類の本能ではなく、新石器時代には男女の役割に差のあまりない共同体があったらしい。

 しかし、紀元前5000年ごろから特定の男がほかより多く子を持つ現象が出てきたという。18世紀には国王を父、臣民を子とする国家論が登場した。

 一方、生物の世界では事情が違う。霊長類の中でヒトに近いボノボのオスは母に守ってもらって群れの中で地位を築くという。

 著者は科学史と工学と安全保障と違った分野でいくつも修士号を持つ科学ジャーナリストだ。

(集英社 2530円)

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