「みんな彼女のモノだった」ステファニー・E・ジョーンズ=ロジャーズ著、落合明子、白川恵子訳

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「みんな彼女のモノだった」ステファニー・E・ジョーンズ=ロジャーズ著、落合明子、白川恵子訳

 南北戦争下のアメリカ南部を舞台に描かれたマーガレット・ミッチェルの「風と共に去りぬ」には、主人公スカーレット・オハラの母親エレンや幼馴染みのメラニーのように、心優しく慈悲深い南部貴婦人が登場する。南北戦争以前の南部諸州では強固な奴隷制度が存在し、多くの黒人たちが白人家庭に奴隷として厳しく管理・支配されていた。こうした現実に対して、「慈悲深い貴婦人」たる白人女性はその生々しい実態を知らずに傍観者の立場にあった、というのが従来の見方だった。いや、そうではない、白人女性の多くは奴隷制度をよく理解し、むしろ積極的に関わり大きな利益を得ていたことを示したのが本書である。

 19世紀半ば、ノースカロライナ州の奴隷を所有する家庭で育ったリジーは、ある日自分の世話をしてくれていた奴隷身分の女性ファニーに苛立ちを覚え、父親に、ファニーの耳を切り落として、代わりに新しいメイドを連れてきてほしいと頼んだ。そのとき、リジーは3歳だった。おそらく、両親が周囲にいる奴隷身分の者たちに接する様子を観察しながら、奴隷所有者になる作法を学んでいたのだ。それはリジーのみならず、南部の白人少女たちの多くは、そうした学びの中で奴隷所有者になることを自ら決めていたのである。

 著者は、元奴隷身分であった黒人へのインタビューほか、さまざまな資料から、父親が自分の娘に「財産」として自分の奴隷を譲渡する法的な側面や、白人女性たちの具体的な奴隷の管理・養育の事例、南部経済を支えていた奴隷市場への積極的関与、南北戦争以後の奴隷制度廃止から自由労働市場への移行における彼女たちの抵抗と挫折などを事細かに検証していく。

 慈悲深い貴婦人という既成概念の神話崩しであると同時に、本書で紹介された事例の数々は、現在に続くアメリカの人種差別の根深さをまざまざと見せつけている。 〈狸〉

(明石書店 4950円)

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