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「シオニズム」鶴見太郎著

 パレスチナに対するイスラエルの暴虐。その背景にあるのがシオニズムだ。



「シオニズム」鶴見太郎著

 本書の冒頭で著者は意外な事実を明らかにする。イスラエルの歴代首相のおよそ半数がウクライナやベラルーシなど東欧出身なのだ。彼らは出生の段階ではロシア帝国生まれ。現在のネタニヤフの両親もロシア領ポーランドの出身だ。イスラエル建国の前、世界のユダヤ人の約半数がロシアに暮らしていたのだという。ただし彼らは自分のことをロシア人ではなくユダヤ人と定義した。それは彼らの自己認識が「シオンの民」だったから。「ユダヤ人の民族的拠点をパレスチナに築くことをめざす思想・運動」、これがシオニズムだ。

 イスラエルが建国されるとシオニズムは成就したと思われがちだが、実は違う。周囲は敵だらけ、世界でも孤立しているとの危機意識から、シオニズムは国家を支え、世界中のユダヤ人をイスラエルに結びつける運動へと再展開されたという。現在のイスラエルの所業に反対する声をすべて「反ユダヤ主義」に結びつける傾向もこれに関係している。しかし、だからといってシオニズムを「ロシア産」と結びつけるのは短絡になる。著者はシオニズムとロシア帝国と西洋中心主義の入り組んだ関わりをていねいに解きほぐして解説している。 (岩波書店 1232円)

「イスラエル・パレスチナ紛争をゼロから理解する」イラン・パぺ著、早尾貴紀監訳、広瀬恭子、茂木靖枝訳

「イスラエル・パレスチナ紛争をゼロから理解する」イラン・パぺ著、早尾貴紀監訳、広瀬恭子、茂木靖枝訳

 イギリスの大学でパレスチナ現代史を研究する著者はユダヤ系イスラエル人。実証的な歴史研究者だが、2023年のガザ一斉蜂起に対するイスラエルのガザ壊滅作戦をきっかけに一般向けに書かれたのが本書だ。その眼目はイスラエルの行動がハマスのテロに対する「自衛戦争」だというネタニヤフ政権の主張への実証的批判。それゆえ著者は故国に帰ることができなくなっているという。

 いまから100年前、パレスチナの政治はイギリスに牛耳られていた。イスラエルで信じられている歴史観では当時のパレスチナに民族意識はなかったことになっているが、著者はそれを誤りと指摘。一部のキリスト教徒と連携しながらパレスチナ・アラブ会議を中心組織として強い独立性を示していた。しかしイギリスの策謀によってしだいにユダヤ系社会の中のシオニスト集団が独自のアイデンティティーと国家形成を強めてゆくことになった。イギリスの奸計によって悲劇化したパレスチナ史の複雑ないきさつがよくわかる。 (河出書房新社 1100円)

「中東 大地殻変動の結末」宮家邦彦著

「中東 大地殻変動の結末」宮家邦彦著

 かつて外務省でアラビスト(アラビア語研修者)だった著者。入省は1978年。イランの王制が革命で倒れた年だ。これこそ「当時の中東地域の地政学的環境を一変させた大地殻変動の先駆けだった」という著者だが、直前にイランを訪問して当時のパーレビ国王と面会したのが福田赳夫首相。当時の共同声明には「石油の輸出の分野」での「緊密な協力」で合意したとし、「両国が共に古い伝統文化を有しているとともに近代的文明を志向している」とうたった。これに著者はツッコミを入れ、「何ともピントのズレた共同声明」という。声明はおそらく著者の先輩か上司が書いたものだから、半世紀近く後の上層部批判というわけだ。

 著者によればアメリカの対イスラエル外交は1950年代の反ユダヤ主義から、政権中枢にユダヤ系知識世代の増えた60年代以降に大転換したという。しかし米国内の親イスラエルロビーは、ユダヤ系が作ったユダヤロビーとは違う福音派が形成した。ここでも聖書に書かれた「終末の預言」をかたくなに信じるシオニズムの影響が見られるわけだ。 (中央公論新社 1056円)

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