著者のコラム一覧
スージー鈴木音楽評論家

1966年、大阪府東大阪市生まれ。昭和歌謡から最新ヒット曲まで幅広いジャンルの楽曲を、社会的な視点からも読み解く。主な著者に「中森明菜の音楽1982-1991」「大人のブルーハーツ」「日本ポップス史 1966-2023」など。半自伝的小説「弱い者らが夕暮れて、さらに弱い者たたきよる」も話題に。日刊ゲンダイの好評連載をまとめた「沢田研二の音楽を聴く1980-1985」、最新刊「日本の新しい音楽1975~」は大好評。ラジオDJとしても活躍。

『アンド・アイ・ラヴ・ハー』間奏に向かう、まさにその瞬間がもっとも耳を引く

公開日: 更新日:

アルバム『ハード・デイズ・ナイト』(1964年7月10日発売)④

■『アンド・アイ・ラヴ・ハー』

 ソングライターとして確実に成長しているポールを感じさせる一曲。

 まずはコード進行が新しい。ビートルズ後期には、複雑怪奇なコード進行を使いながら、それでもポップな名曲に仕立て上げる魔法を会得するポールだが、ここでは、その第一歩のような工夫が感じられる。


 またちょっと専門的でごめんなさい。逆に、ギターを弾ける方は、ぜひ弾きながら試してみてください。

 キーは「E」(C♯m)なのだが、イントロは「F♯m」から始まる。つまり予期しない始まり方で、聴き手は一瞬、キーがはっきりしないことによる不安定さを感じる。

 そして「何だか不安定だなぁ」とジリジリしていると、試聴リンク再生時間「0:25」の「♪アイ・ラヴ・ハー」のところでキーである「E」に落ち着いて安堵する。という不安定→安定、緊張→弛緩のメカニズムで聴かせるのだ。

 またキーが「E」なのに「F♯m」から始まるというのは、同じくポールによる『オール・マイ・ラヴィング』と共通。過去作の経験を踏まえて、地道にステップアップしているさまがほほ笑ましい。

 しかし、この曲でもっとも目、ならぬ耳を引くのは、再生時間「1:29」、間奏に向かうまさにその瞬間。キーが「E」から「F」に半音上がるのである。つまり専門用語で言えば半音上への「転調」。

 小理屈はさておき「1:29」のところで、気分が少しリセットされるというか、ちょっと視界がすっと開ける感じがしませんか?

 今後ポールは、奇想天外な転調を多用して、聴き手を驚かせ、うならせる。都度都度、ここで解説していきたい。

 演奏面でいうと、ポールのベースにジョンのアコギ、リンゴのボンゴ、そしてジョージのガット(クラシック)ギターというのは、すでに紹介した『ティル・ゼア・ウォズ・ユー』と同じで、ここでも過去作の経験を生かしている。ちなみに「コン・コン」という拍子木みたいな音は、ポールの叩くクラベスという楽器の音色。

 というわけでコードを見ながら(最近はすぐに検索できる)、ぜひ原曲に合わせてギターなどでコードを弾いて確かめていただきたい。

 しかし、ここでご注意。DVDなどで入手できる映画の音源に合わせて弾いてはいけない。というのは、この曲を含む、スタジオやステージで演奏している映画のシーンの音源は、キーがレコードより約半音低くなっているから。だから聴いていて、何だかダラッとしていて、気持ち悪いのです。

■著者最新刊「日本ポップス史1966-2023~あの音楽家の何がすごかったのか」 絶賛発売中!Amazonでのお求めはこちらから

■好評連載「沢田研二の音楽1980-1985」をまとめた「沢田研二の音楽を聴く1980-1985」(日刊現代/講談社)発売中!

■関連キーワード

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • 芸能のアクセスランキング

  1. 1

    萩本欽一(11)ひとりぼっち寂しく貧乏飯を食べながら「先生も同級生もバカだな」と思うことにした

  2. 2

    不慮の事故で四肢が完全麻痺…BARBEE BOYSのKONTAが日刊ゲンダイに語っていた歌、家族、うつ病との闘病

  3. 3

    嵐が去る前に思い出す…あの頃の「松本潤」と「大野智」

  4. 4

    視聴率の取れない枠にハマった和久田麻由子アナの不運 与えられているのは「誰でもできる役割」のみ

  5. 5

    あのちゃん追い風だった女優業に暗雲の炎上!「嫌いな芸能人」発言で反撃される痛恨

  1. 6

    出口夏希の“男選び”がもたらす影響…伊藤健太郎との熱愛報道と旧ジャニファンが落ち込む意外

  2. 7

    仲間由紀恵46歳の“激変ふっくら姿”にネット騒然も…紆余曲折を経てたどり着いた現在地

  3. 8

    休養中の菊池風磨「timelesz」5月ライブは不在…チケット"取れすぎ"が危ぶまれるグループ人気と「激痩せ」と「占い」

  4. 9

    高畑裕太の“緊急声明”で蒸し返された千眼美子(清水富美加)との「異常な距離感」と“米粒騒動”

  5. 10

    サバンナ高橋“10年いじめ”問題からにじむ上下関係の悪しき伝統と「吉本の闇」…鬼越トマホーク良ちゃんも参戦

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    不慮の事故で四肢が完全麻痺…BARBEE BOYSのKONTAが日刊ゲンダイに語っていた歌、家族、うつ病との闘病

  2. 2

    萩本欽一(11)ひとりぼっち寂しく貧乏飯を食べながら「先生も同級生もバカだな」と思うことにした

  3. 3

    嵐が去る前に思い出す…あの頃の「松本潤」と「大野智」

  4. 4

    あのちゃん追い風だった女優業に暗雲の炎上!「嫌いな芸能人」発言で反撃される痛恨

  5. 5

    視聴率の取れない枠にハマった和久田麻由子アナの不運 与えられているのは「誰でもできる役割」のみ

  1. 6

    医学部に進学した息子のために老後破産したエリートサラリーマンの懺悔

  2. 7

    初期ビートルズの代名詞のような2曲の、まるっきり新しかったポップさ、キュートさ、叫びっぷり

  3. 8

    混戦制した河本結の"自己中プレー"に中継解説者が苦言…人気女子プロに問われるモラルとマナー

  4. 9

    田中将大が楽天を去った本当の理由…退団から巨人移籍までに俺とした“3度の電話”の中身

  5. 10

    ますます劣化する高市官邸…ポテチパッケージ白黒変更を「カルビーの売名行為」と幹部暴言しSNS大炎上