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スージー鈴木音楽評論家

1966年、大阪府東大阪市生まれ。早大政治経済学部卒業後、博報堂に入社。在職中から音楽評論家として活動し、10冊超の著作を発表。2021年、55歳になったのを機に同社を早期退職。主な著書に「中森明菜の音楽1982-1991」「〈きゅんメロ〉の法則」「サブカルサラリーマンになろう」「大人のブルーハーツ」など。半自伝的小説「弱い者らが夕暮れて、さらに弱い者たたきよる」も話題に。日刊ゲンダイの好評連載をまとめた最新刊「沢田研二の音楽を聴く1980-1985」(日刊現代/講談社)が絶賛発売中。最新刊「日本ポップス史 1966-2023: あの音楽家の何がすごかったのか」が発売中。ラジオDJとしても活躍。

『アンド・アイ・ラヴ・ハー』間奏に向かう、まさにその瞬間がもっとも耳を引く

公開日: 更新日:

アルバム『ハード・デイズ・ナイト』(1964年7月10日発売)④

■『アンド・アイ・ラヴ・ハー』

 ソングライターとして確実に成長しているポールを感じさせる一曲。

 まずはコード進行が新しい。ビートルズ後期には、複雑怪奇なコード進行を使いながら、それでもポップな名曲に仕立て上げる魔法を会得するポールだが、ここでは、その第一歩のような工夫が感じられる。


 またちょっと専門的でごめんなさい。逆に、ギターを弾ける方は、ぜひ弾きながら試してみてください。

 キーは「E」(C♯m)なのだが、イントロは「F♯m」から始まる。つまり予期しない始まり方で、聴き手は一瞬、キーがはっきりしないことによる不安定さを感じる。

 そして「何だか不安定だなぁ」とジリジリしていると、試聴リンク再生時間「0:25」の「♪アイ・ラヴ・ハー」のところでキーである「E」に落ち着いて安堵する。という不安定→安定、緊張→弛緩のメカニズムで聴かせるのだ。

 またキーが「E」なのに「F♯m」から始まるというのは、同じくポールによる『オール・マイ・ラヴィング』と共通。過去作の経験を踏まえて、地道にステップアップしているさまがほほ笑ましい。

 しかし、この曲でもっとも目、ならぬ耳を引くのは、再生時間「1:29」、間奏に向かうまさにその瞬間。キーが「E」から「F」に半音上がるのである。つまり専門用語で言えば半音上への「転調」。

 小理屈はさておき「1:29」のところで、気分が少しリセットされるというか、ちょっと視界がすっと開ける感じがしませんか?

 今後ポールは、奇想天外な転調を多用して、聴き手を驚かせ、うならせる。都度都度、ここで解説していきたい。

 演奏面でいうと、ポールのベースにジョンのアコギ、リンゴのボンゴ、そしてジョージのガット(クラシック)ギターというのは、すでに紹介した『ティル・ゼア・ウォズ・ユー』と同じで、ここでも過去作の経験を生かしている。ちなみに「コン・コン」という拍子木みたいな音は、ポールの叩くクラベスという楽器の音色。

 というわけでコードを見ながら(最近はすぐに検索できる)、ぜひ原曲に合わせてギターなどでコードを弾いて確かめていただきたい。

 しかし、ここでご注意。DVDなどで入手できる映画の音源に合わせて弾いてはいけない。というのは、この曲を含む、スタジオやステージで演奏している映画のシーンの音源は、キーがレコードより約半音低くなっているから。だから聴いていて、何だかダラッとしていて、気持ち悪いのです。

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