『アンド・アイ・ラヴ・ハー』間奏に向かう、まさにその瞬間がもっとも耳を引く
アルバム『ハード・デイズ・ナイト』(1964年7月10日発売)④
■『アンド・アイ・ラヴ・ハー』
ソングライターとして確実に成長しているポールを感じさせる一曲。
まずはコード進行が新しい。ビートルズ後期には、複雑怪奇なコード進行を使いながら、それでもポップな名曲に仕立て上げる魔法を会得するポールだが、ここでは、その第一歩のような工夫が感じられる。
またちょっと専門的でごめんなさい。逆に、ギターを弾ける方は、ぜひ弾きながら試してみてください。
キーは「E」(C♯m)なのだが、イントロは「F♯m」から始まる。つまり予期しない始まり方で、聴き手は一瞬、キーがはっきりしないことによる不安定さを感じる。
そして「何だか不安定だなぁ」とジリジリしていると、試聴リンク再生時間「0:25」の「♪アイ・ラヴ・ハー」のところでキーである「E」に落ち着いて安堵する。という不安定→安定、緊張→弛緩のメカニズムで聴かせるのだ。
またキーが「E」なのに「F♯m」から始まるというのは、同じくポールによる『オール・マイ・ラヴィング』と共通。過去作の経験を踏まえて、地道にステップアップしているさまがほほ笑ましい。
しかし、この曲でもっとも目、ならぬ耳を引くのは、再生時間「1:29」、間奏に向かうまさにその瞬間。キーが「E」から「F」に半音上がるのである。つまり専門用語で言えば半音上への「転調」。
小理屈はさておき「1:29」のところで、気分が少しリセットされるというか、ちょっと視界がすっと開ける感じがしませんか?
今後ポールは、奇想天外な転調を多用して、聴き手を驚かせ、うならせる。都度都度、ここで解説していきたい。
演奏面でいうと、ポールのベースにジョンのアコギ、リンゴのボンゴ、そしてジョージのガット(クラシック)ギターというのは、すでに紹介した『ティル・ゼア・ウォズ・ユー』と同じで、ここでも過去作の経験を生かしている。ちなみに「コン・コン」という拍子木みたいな音は、ポールの叩くクラベスという楽器の音色。
というわけでコードを見ながら(最近はすぐに検索できる)、ぜひ原曲に合わせてギターなどでコードを弾いて確かめていただきたい。
しかし、ここでご注意。DVDなどで入手できる映画の音源に合わせて弾いてはいけない。というのは、この曲を含む、スタジオやステージで演奏している映画のシーンの音源は、キーがレコードより約半音低くなっているから。だから聴いていて、何だかダラッとしていて、気持ち悪いのです。
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