「石原吉郎の詩の構造 他者、言語、世界」斉藤毅著

公開日: 更新日:

「石原吉郎の詩の構造 他者、言語、世界」斉藤毅著

 1945年の第2次世界大戦後、ソ連は日本の民間人を含む軍人・軍属をシベリアをはじめとするソ連各地に抑留、60万人もの人々が過酷な重労働に従事させられた。このシベリア抑留体験記としては高杉一郎「極光のかげに」、内村剛介「生き急ぐ」など優れた作品があるが、中でも石原吉郎の「望郷と海」は刊行後半世紀以上経った今も多くの人に読み継がれている。

 石原は、41年に関東軍のハルビン特務機関へ配属され、敗戦後逮捕。以後シベリア各地の収容所を転々とし、49年2月、反ソ・スパイ行為の罪で重労働25年の判決を受ける。53年12月に帰国、翌年から詩作を始め、63年に第1詩集「サンチョ・パンサの帰郷」を上梓。その後も詩集を出していくが、その詩はしばしば難解とされる。本書は、石原の詩の構造を綿密に分析し、難解とされる語句やレトリックなどを解きほぐしていく。

 例えば、「やぽんすきい・ぼおぐ」という詩の「小さな陰茎」という語に着目し、これは日本人捕虜に対する侮蔑を意味するとともに、後の行の「不意に」という言葉と響き合う。またこの詩の背景にはシベリアの森林伐採の風景があり、この「茎」は「白樺」に通じ、続く「小さな斧」によって白樺が伐られること、つまりは去勢を表している。更に「陰」は日(日本、陽)と呼応し、詩の後半に登場する「落日」はやはり去勢を象徴している……。詩の全文がないと牽強付会な解釈と思えるかもしれないが、詩の一語、一行を石原の抑留体験と重ね合わせながら読み解いていく著者の解釈には説得力がある。

 そして「そのとき 銃声がきこえ/日まわりはふりかえって/われらを見た」といった石原が多用する主客逆転のレトリックも、石原にとって詩こそが自らが体験した過酷な現実に抗う非力の力、祈りのようなものだったことから生まれたものだということを鮮やかな手さばきで示していく。 〈狸〉

(法政大学出版局 4180円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    株主82万人に拡大も…前澤友作氏「カブ&ピース」のビジネスモデルは法規制に大きく左右される

  2. 2

    医学部に進学した息子のために老後破産したエリートサラリーマンの懺悔

  3. 3

    高市自民に「卑怯」「選挙やり直せ」とSNS大炎上! 違法「広告動画」出稿疑惑は拡大必至

  4. 4

    高市首相が国政初挑戦の1992年に漏らした「女を武器に」の原点 投開票日の夜に“チョメチョメ”告白の仰天

  5. 5

    ひろゆき氏も"参戦" 「タモリつまらない」論争に擁護派が続出する“老害化とは無縁”の精神

  1. 6

    休養中の菊池風磨「timelesz」5月ライブは不在…チケット"取れすぎ"が危ぶまれるグループ人気と「激痩せ」と「占い」

  2. 7

    サバンナ高橋“10年いじめ”問題からにじむ上下関係の悪しき伝統と「吉本の闇」…鬼越トマホーク良ちゃんも参戦

  3. 8

    今春の関東大会は「戦い方」が難しい 夏以降の新チームにも薄っすらと危機感を抱いています

  4. 9

    ビットコインは一気に投資拡大の可能性 200日移動平均線の水準に

  5. 10

    テープのつなぎめが分かりにくい「ハイファイ・ビートルズ」