「法獣医学者が解き明かす動物の事件簿」田中亜紀著
「法獣医学者が解き明かす動物の事件簿」田中亜紀著
法獣医学とは耳慣れない言葉だが、動物のさまざまな不審な状態について、獣医学的に探求する学問で、法律に関係する事柄だけでなく動物福祉なども含め、動物と人との関係全般の問題を扱う新しい学問分野だ。著者は日本における法獣医学とシェルターメディスン(シェルターにおける動物の健康管理)のパイオニア。動物愛護が人間を主体とした考え方であるのに対し、動物福祉とは動物を主体にした考えだ。そこでは①飢えと渇きからの自由②不快からの自由③痛み・傷害・病気からの自由④恐怖や抑圧からの自由⑤正常な行動を表現する自由、の5つの自由を満たすことが原則とされている。
本書は、ペットや野生動物と人間をめぐるさまざまな事件の実例を挙げながら動物福祉の問題を考えていく。ペット問題でよくあるのは「多頭飼育崩壊」だ。ある例では犬、猫のほか、ウサギ、ハムスター、モモンガ、イグアナなど24種類58匹の動物が床には糞尿が堆積し、ネズミの死骸が転がるという劣悪な環境で飼われていた。また、足が小さく尻尾が短い方がかわいいというので、トイプードルは生後間もなく5本ある指のうち親指を切除され、長い尻尾を短く切られていたり、人間の好みに品種改良を施されているペットも多い。こうしたことも動物福祉の観点から問題視されている。
そのほか、鶏、牛、豚などの産業動物、盲導犬、聴導犬などの使役動物、医療や生命科学に欠かせないマウスなどの実験動物、そして近年問題となっているクマやシカなどの野生動物などについても、動物主体の科学的な視点から動物と人間の関係を描き出している。
著者が言うように、共に同じ地球で暮らす動物と人の幸せは一体であり、動物の福祉を考えることは人間の福祉を考えることである。先の5つの自由のすべてが侵されているガザ、イランの現状を見ると、その言葉が胸に深く突き刺さってくる。
〈狸〉
(岩波書店 2970円)



















