「計算道具の歴史 石、そろばんから電卓まで」キース・ヒューストン著 上原ゆうこ訳

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「計算道具の歴史 石、そろばんから電卓まで」キース・ヒューストン著 上原ゆうこ訳

 本書「はじめに」にも書かれているように、カラス、ハト、グッピー、クモ……自然界の動物の多くが数を数えることができるが、道具を使って計算するのは人間だけだ。最古の計算道具は29個の刻み目を彫られたヒヒの腓骨で、およそ4万2000年前のもの。この刻み目が何の量を表すのかは不明だが、なんらかの数を外部記憶に残したものと思われる。最古の計算機は古代メソポタミアで発明されたアバカスで、平らな板にワイヤや棒を渡してそれに沿ってスライドさせることができる穴の開いた石がいくつか通してあり、それを動かして計算する。そう、そろばんの原形だ。

 本書は原初のアバカスから最新のコンピューターへと進化を遂げてきた計算道具の歴史をたどっている。中でも本書が焦点を当てるのは「ポケットに入る計算機」。計算ができてしかも持ち運びができる、人類は有史以来そんな夢を抱き続けてきた。それに挑戦した一人が哲学者のパスカルだが、著者いわく「彼のあらゆる知的企ての中でおそらくもっとも成功しなかった」。しかしその発想自体は受け継がれアリスモメーターという機械計算機を生むことになる。その後は真空管やトランジスタなどによって軽量・小型が加速し、電卓の誕生となる。

 面白いのは、アメリカ初の有人地球周回飛行を打ち上げる際に、パイロットのジョン・グレンが軌道計算に電動の機械計算機より女性の計算手の方を信じていたという話だ。

 本書には電卓開発を巡る日米の熾烈な闘いなど人間味あふれるエピソードがふんだんに盛り込まれている。今世紀に入ると計算アプリが大勢を占めており、著者は本書をこう締めくくる。「電卓は死んだ。電卓よ永遠なれ」。しかし、2025年現在、電卓はピーク時には及ばないものの今も相当数の生産・出荷がされている。グレンの亡霊が新たな形で機械の中で生きているのかもしれない。 〈狸〉

(原書房 3960円)

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