【民衆のアメリカ】時代が下るにつれマイノリティー同士の連帯にも多彩な顔が
「『民衆』のロスアンジェルス」土屋和代著
トランプが州兵を派遣して弾圧するのはリベラルな都会ばかり。これに対抗するかのように民衆の立場からアメリカを論じる研究が増えている。
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「『民衆』のロスアンジェルス」土屋和代著
ロサンゼルスはドジャースのお膝元で日本人にもなじみ深い。この街の流行地区に、特殊部隊のような重装備に身を固めた移民・税関捜査局(ICE)の集団がマスクで顔を隠して出現。抗議に集まった人々との間で騒乱になったのを受け、トランプは州兵と海兵隊の派遣を決定。過去にも例はあるが、州知事にまったく断らないのはきわめて異例。もはやアメリカは妥協も話し合いの余地もない社会になったようだ。
本書はかつて「暑く長い夏」と呼ばれた1968年のワッツ反乱から現在までのアメリカ現代史を舞台にした「黒人自由闘争」の歴史を論じる。特にラテン系、イタリア系、ユダヤ系、韓国系など黒人コミュニティーの周辺にあるマイノリティーとの関係を重視し、「レイシズム(人種差別)に抗する文化と知が築かれる過程」に注目するという。具体的には地元の黒人新聞、地元の作家や詩人らの文芸サークル、住人が自発的に作ったワッツ・タワー、私設図書館、ドキュメンタリー映画などを各章でとりあげ、さまざまな人種やジェンダーや世代の交差する社会的な活動に焦点を当てる。
時代が下るにつれてマイノリティー同士の連帯にも多彩な顔が生まれてきたようだ。 (有志舎 3520円)
「社会主義都市 ニューヨークの誕生」矢作弘著
「社会主義都市 ニューヨークの誕生」矢作弘著
昨年秋、ニューヨークの市長選で初めて「民主社会主義者」を自称する候補者が選ばれたというニュースが世界をかけめぐった。トランプ政権の勢いの止まらない中での出来事だけに一気に注目が集まった。ゾーラン・マムダニ新市長は34歳の若さ。アフリカはウガンダ生まれで、しかもインド系。父は人類学者、母は映画監督で本人が7歳のときに父がコロンビア大の教授になるためにニューヨークに移り住んだという異色のエリートだ。本書はそのマムダニに魅せられた著者によるマムダニ現象論。彼の生い立ちからライフコース、陣営の政策メニュー、反対陣営からの批判(嫌がらせを含む)とそれへの反論、支持者たちの期待などを熱っぽい筆でつづる。
マムダニはトランプとその取り巻きから「コミュニスト」と目の敵にされるが、著者によれば「所詮、ヨーロッパの社会民主主義レベルのリベラル」。つまりオランダやスウェーデン並みということだろう。無料バスを通し、家賃の法外な引き上げを規制し、グローバル化とジェントリフィケーション(都市優美化)で市場が置き去りにしてきた弱者救済策を復活させるということだ。そこに思い入れるアメリカの記事を多数読みふけるうち、著者自身もマムダニに強く感情移入したと認めている。 (学芸出版社 2420円)
「暗黒のアメリカ」アダム・ホックシールド著、秋元由紀訳
「暗黒のアメリカ」アダム・ホックシールド著、秋元由紀訳
ショッキングな書名だが、これは現代の話ではない。副題に「第一次世界大戦と追い詰められる民主主義」。いまから100年余り前の第1次大戦で、アメリカは世界最大の強国に仲間入りした。しかしその時代は決して理想的でもなければ安定してもいなかった。労働争議が頻発し、黒人やユダヤ人への差別は日常的。大統領ウィルソンは不戦を唱えて選挙に勝ったが、やがて道徳的な理由で戦争への参加を唱えると議会は満場の拍手に包まれ、あっという間に愛国機運が満ちた。その中でドイツ系市民はおびえた。民衆はむしろ抑圧されたのだ。
戦争が終わると戦場で尽力した黒人たちの平等を求める運動が盛んになる一方、白人至上主義者たちの憎悪が燃え上がり、凄惨なリンチが横行した。特に軍服を着た黒人は目の敵にされたという。集団で黒人街を焼き打ちにする人種暴動では、その鎮圧を名目に軍の高官が監視の強化と自分の出世を狙ったりもした。FBIが創設され、国内のスパイ摘発名義で監視を敷いたのもこの時期だ。
著者は各地の新聞で記者をつとめたベテランジャーナリスト。日本版向けの解説などがあるとよかった。 (みすず書房 4950円)



















