著者のコラム一覧
クロキタダユキ

スリー・ビルボード(2017年、英国/米国)

公開日: 更新日:

 米国の田舎町に暮らす母親ミルドレッドは、女手一つで育ててきた娘をレイプされ、焼き殺されてしまう。犯人が捕まらず、警察への不満を募らせると、道路沿いに広告板を3枚デカデカと張り出す。そんなアナログな抗議行動が予想外の波紋を呼ぶ。

 非難された警察署長は住民からの信頼が厚く、別れたDV夫からもののしられる始末。そこで浴びせられた言葉だ。

 末期がんだった署長はやがて3通の遺書を残して自殺。差別主義者の部下は広告板のせいだと勘違いし、ゲイを窓から突き落として大ケガをさせる。その言葉通り広告板が次々と負の連鎖を生んでいく。

 注目は、そこに色濃く描かれた人間の悲哀だろう。ミルドレッドを演じるフランシス・マクドーマンド、差別主義者の警官をサム・ロックウェルが演じる。オスカーに輝くのも納得で、署長役のウディ・ハレルソンと共に、やりきれない不毛な人間の心の闇を丁寧に映し出している。

 練られた脚本がよく、アイルランド出身監督の演出はブラックな職人技が光る。静かに、しかしぐいぐいと引き込まれていくのだ。

 70年代のアメリカン・ニューシネマのようで、人間くさい重いドラマながら見終わった後は不思議とすがすがしさが残る。黒人やゲイなどへの差別がさりげなく織り込まれているのも興味深い。上質な映画をゆったり楽しみたい人にお薦めだ。

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    松任谷由実が矢沢永吉に学んだ“桁違いの金持ち”哲学…「恋人がサンタクロース」発売前年の出来事

  2. 2

    ヤクルト「FA東浜巨獲得」に現実味 村上宗隆の譲渡金10億円を原資に課題の先発補強

  3. 3

    農水省「おこめ券」説明会のトンデモ全容 所管外の問い合わせに官僚疲弊、鈴木農相は逃げの一手

  4. 4

    早大が全国高校駅伝「花の1区」逸材乱獲 日本人最高記録を大幅更新の増子陽太まで

  5. 5

    timelesz篠塚大輝“炎上”より深刻な佐藤勝利の豹変…《ケンティとマリウス戻ってきて》とファン懇願

  1. 6

    早瀬ノエルに鎮西寿々歌が相次ぎダウン…FRUITS ZIPPERも迎えてしまった超多忙アイドルの“通過儀礼”

  2. 7

    国民民主党“激ヤバ”女性議員ついに書類送検! 野党支持率でトップ返り咲きも玉木代表は苦悶

  3. 8

    池松壮亮&河合優実「業界一多忙カップル」ついにゴールインへ…交際発覚から2年半で“唯一の不安”も払拭か

  4. 9

    波瑠のゴールインだけじゃない? 年末年始スクープもしくは結婚発表が予想される大注目ビッグカップル7組総ざらい!

  5. 10

    アヤックス冨安健洋はJISSでのリハビリが奏功 「ガラスの下半身」返上し目指すはW杯優勝