「黒い牡牛」観客は赤狩りの米国民 牛はトランボ自身か

公開日: 更新日:

 父親、牧場主、闘牛関係者、大統領ら少年を取り巻く大人たちはみな優しい。だが非情にもヒタノは闘牛場で何本ものモリを刺されて血を流す。レオナルドは涙を浮かべて見つめるしかない。

 ネタバレになるが、ヒタノが闘牛士の剣で命を奪われる直前、観客から「殺すな」というコールが湧き起こる。トランボが書いた「スパルタカス」(1960年)ではヒーローの仲間たちが「私がスパルタカスだ」と叫んで身代わりになろうとしたが、本作では流血を見にきた観衆が牛の命を救えと声を上げる。

 トランボは牛を自分に見立てて、大衆の「覚醒」を訴えたのだろう。自分はジョセフ・マッカーシーに迫害され、米国民は彼の赤狩りに声援を送っている。こうした大衆のファシズム的な熱狂こそが牛をいけにえにする見せ物であり、「殺すな」の声は彼らが過ちに気づいた証しなのだと。

 そうした観点で観賞すると、友情物語はシリアスな政治的テーマを突きつけてくる。見る側の感動も崇高なものになるはずだ。

(森田健司)

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    大の里、豊昇龍の両横綱も戦々恐々…「新怪物」加入で躍進止まらぬ伊勢ケ浜部屋の巨大戦力

  2. 2

    星野監督は中村武志さんを張り倒した直後、3ランを打った隣の俺にも鉄拳制裁…メチャクチャ痛かった

  3. 3

    「ブラタモリ」抜擢の桑子真帆アナ “金髪チャラ系”の大学時代

  4. 4

    松重豊は福岡の人気私立「西南学院」から明大文学部に 学費の問題で日大芸術学部は断念

  5. 5

    元幕内照強の“しょっぱい犯罪”に角界も呆れた…トラブル多数現役時代の「ヤンチャ」な素顔

  1. 6

    佐々木朗希いったい何様? ロッテ球団スタッフ3人引き抜きメジャー帯同の波紋

  2. 7

    小祝さくらは「加齢の影響」漏らしていた…ツアー6週連続欠場の深刻度

  3. 8

    84歳の五月みどりが最期のパートナーと過ごす“やすらぎの刻”…経営するギフトショップは閉店

  4. 9

    9.8決戦を目前に過熱する「石破おろし」情報戦…飛び交う総裁選前倒し「賛成」の票読み

  5. 10

    巨人・泉口友汰がセ首位打者に浮上…遊撃手“3番手扱い”からの進化を支える2人の師匠