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碓井広義メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。81年テレビマンユニオンに参加。以後20年、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶應義塾大学助教授などを経て2020年3月まで上智大学文学部新聞学科教授。専門はメディア文化論。著書に「倉本聰の言葉―ドラマの中の名言」、倉本聰との共著「脚本力」ほか。

コロナ禍に揺れた2020年のテレビドラマ界を振り返る

公開日: 更新日:

 社会全体がそうであるように、今年のドラマ界もまた新型コロナウイルスの感染拡大を抜きに語ることはできない。厳しい状況の中でドラマ制作を続けた皆さんに敬意を表しながら、この一年を振り返ってみたい。

 1月クールには上白石萌音主演「恋はつづくよどこまでも」(TBS系)があった。ヒロインの七瀬(上白石)は修学旅行で鹿児島から上京し、偶然出会った医師の天堂(佐藤健)に一目ぼれする。彼の近くに行こうと看護師を目指し、天堂と同じ病院で働き始めた。看護師として一人前になること、天堂に振り向いてもらうこと、そのためにはどんな努力も惜しまない。やがて彼女の天性の明るさと笑顔は患者たちの支えとなっていく。七瀬はかたくなだった天堂の気持ちも動かすが、一番揺さぶられたのは見る側の感情だ。仕事も恋も初心者で、失敗しては落ち込み、泣いて、また顔を上げる。ひたすら一途でけなげなヒロインに多くの人が癒やされた。

■予想を超える戦争描写に驚かされた「エール」

 4月、NHKの連続テレビ小説「エール」が始まった。このドラマ、全体としては誰もが楽しく見ることのできる良質な朝ドラになっていた。古関裕而がモデルの作曲家・古山裕一(窪田正孝)とオペラ歌手でもあった妻・音(二階堂ふみ)の「夫婦物語」であり、2人を軸とした昭和の「音楽物語」でもあるという複層構造が功を奏したのだ。ただ、古関はかつて「軍歌の巨匠」でもあった。「勝ってくるぞと勇ましく」の歌い出しで知られる、「露営の歌」などその一例だ。レコード会社の専属作曲家としての「業務」だったことは事実だが、古関の中に葛藤はなかったのか。果たしてこの時代の古関を、いや古山裕一を描けるのか、注目していた。

 結果的に、予想を超える戦争描写に驚かされた。慰問でビルマ(現在のミャンマー)に赴いた裕一は、前線に出ていき銃撃戦に巻き込まれる。次々と倒れていく日本兵。しかも、ようやく会えた恩師の藤堂(森山直太朗)が目の前で被弾し、亡くなってしまう。これまで何本もの朝ドラが戦争の時代を扱ってきた。だが、悲惨な戦闘シーンをここまで直接的に見せることはなかった。それだけでも「エール」は画期的な朝ドラだったのだ。

 5月から6月にかけて、出演者がそれぞれ別の場所にいる状態で制作する、いわゆる「リモートドラマ」が何本も放送された。その中で、リモートドラマという枠を超えた秀作といえるのが「2020年 五月の恋」(WOWOW)だ。画面は完全な2分割で、別々の部屋に男女がいる。

 会話だけのドラマを駆動させるのはセリフ以外にない。本来、不自由であるはずの「リモートな日常」をてこにして、人の気持ちの微妙なニュアンスまで描いていたのは、脚本の岡田恵和(朝ドラ「ひよっこ」など)の功績だ。

 異色の刑事ドラマ「MIU404」(TBS系)が放送されたのは6月末から9月にかけて。扱われる事件はさまざまだが、このドラマのキモは、いわゆる謎解きやサスペンスだけではない。事件を通じて2人が遭遇する、一種の「社会病理」を描くことにあった。たとえば、外国人留学生や研修生を安価な労働力として使い捨てにする、この国の闇に迫っていた。脚本・野木亜紀子、プロデューサー・新井順子、演出・塚原あゆ子という「アンナチュラル」の最強トリオによる、剛速の変化球である。

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