著者のコラム一覧
大高宏雄映画ジャーナリスト

1954年浜松市生まれ。明治大学文学部仏文科卒業後、(株)文化通信社に入社。同社特別編集委員、映画ジャーナリストとして、現在に至る。1992年からは独立系を中心とした邦画を賞揚する日プロ大賞(日本映画プロフェッショナル大賞)を発足し、主宰する。著書は「昭和の女優 官能・エロ映画の時代」(鹿砦社)など。

「痛くない死に方」評判上々 宇崎と下元と高橋監督の結束

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 在宅医療の実情を描く「痛くない死に方」の評判がいい。在宅医療のスペシャリストである長尾和宏氏の著作の映画化で、柄本佑が主演している。監督はベテランの高橋伴明だ。

 タイトルが実に意味深で、どのようにとるかは人それぞれだといえる。死を間近にした人が在宅で過ごすことの大変さ、厳しさ、難しさを実に丁寧かつ的確な描写で綴る。とともに、ときにユーモアを交えながら、死との向き合い方を前向きにとらえる。柄本は在宅医師の役だ。患者、家族との接し方を通して、医師としての本分を次第につかんでいく彼の成長を描く作品でもある。

死への向き合い方が対照的な2人の患者

 宇崎竜童と下元史朗が患者を演じた。2人とも死期が迫っているが、宇崎は明朗にして快活、喋る言葉数も多い。逆に下元は言葉少なく、痛みに耐え、ひたすら苦痛の中で死と対峙する。

 見ていてつらいのは、もちろん下元のほうだが、宇崎もまた、内面に抱えている不安は計り知れない。人間は表面からだけではわからない。それは、人の“生き方”そのものにもかかわってくる。映画は2人が死と向き合う対象的な姿を、ときにシビアに、ときに冷静にとらえていく。

 筆者は見終わって、作品が訴えかけるテーマの重大さを強く実感し、ある既視感も覚えていた。ピンク映画で名を馳せた高橋監督の最初の“一般映画”「TATTOO〈刺青〉あり」(1982年)の、様々な映像が頭をよぎって仕方なかったのである。

 宇崎と下元は「TATTOO」で重要な役を演じていた。今回、何と39年の長き歳月を経て2人が再度の共演を果たしたのである。これには感動した。映画の感動の仕方とは、このようなところにこそある。既視感は、新作でのそれぞれの役の違いが「TATTOO」と似ていたところからも生まれていた。

「TATTOO」は1979年に起きた三菱銀行人質事件を題材にした。有名な事件なので、知っている方も多いだろう。犯人役が宇崎で、宇崎が付き合うようになる女・三千代(関根恵子、現・高橋惠子)の前の男が下元だ。事件の背景には何があったのか。宇崎扮する明夫は暴力と優しさを都合よく駆使し、三千代を支配下におく。

 よくあるパターンかもしれないが、明夫は「自分中心に地球を回す」(これが事件に結びつく)と意気込んでいるわりには、どこか頼りなさと甘さがある。宇崎の自然体の演技が両方を絶妙に表現し、それがかえって不気味さを増し、明夫の底知れなさが浮き彫りになっていくといった感じだ。

 下元扮する男が、また不思議だった。明夫に三千代をあっさりと奪われ、明夫の裏の顔を知って、いたたまれず逃亡した彼女の相談にものってやる。セリフは短く、最後に三千代と別れるときも、タバコを吸いながら意味不明な表情をするのみだ。

 下元の「TATTOO」での役柄は全くの脇に過ぎないが、明夫と三千代を見据える眼差しにはどこかこの世を見限った風情があって、ゾッとした。喋り過ぎないさりげなさの中に筋の通った人間の凄みさえ感じとれたのである。まさに、影の主役といっていいだろう。

「痛くない死に方」と「TATTOO」から見える景色

 宇崎竜童と下元史朗。そして、高橋伴明。同志の結束といおうか。とくに下元は高橋監督にとって、ピンク映画時代からの盟友ともいえる存在だ。ただ、39年も経てば、変わるものもある。俳優の演技も映画の作り方も題材も当然、変化するだろう。

「痛くない死に方」と「TATTOO」では、まるで違った映画の景色が見えてくる。にもかかわらず、変わらないし変わりようもない映画の息吹が、2人の演技の途方もない高みの境地から感じられる。監督と俳優の向き合い方、付き合い方は時を超えるし、その超え方の中に映画の新たな風貌が立ち現れてくるといったらいいだろうか。

 ちなみに「痛くない死に方」には高橋監督の夫人である高橋惠子は出演していない。もし出演していたら、どのような演技を見せてくれただろうか。そのことも大いに気になり、これは既視感の先にある筆者の空想的な思いとしかいいようがない。

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