俳優・織部典成「新しい扉が開いた」 主演映画「僕が君の耳になる」で手話初挑戦
耳の不自由な女性と、聞こえる男性の実話を基にした恋愛映画「僕が君の耳になる」(テンダープロ配給)が25日に公開となる。本作はバリアフリー日本語字幕付き上映のため、ろう者・聴者ともに楽しめる内容だ。主演の織部典成(20)はろう者と出会い「世界が広がった」と話す。
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ろう者と日常的に関わる機会のある人はどれだけいるのだろうか。我々の暮らしは、ろう者と関わる機会が極端に少ないように感じる。織部も作品と出合うまで、関わりがなかったと話す。
「普段の生活で、ろう者の方に出会うことはありませんでした。寄り添いたい気持ちはあるのに何をすればいいか分からない。手話も初めは覚えられず苦戦しました。というのも、覚えようとしたらダメだと痛感しましたね。相手に伝えたいという気持ちが第一で、楽しむことも忘れずに練習することで徐々に出来るようになりました」
「2つの世界がある」
ヒロインは、ろう者の梶本瑞希が務める。コミュニケーションはどのように?
「プライベートの会話も手話を心掛け、伝わらないときは携帯を使って筆談しました。梶本さんは簡単な手話を使い、僕の意思を読み取ってくれました。最終的に、手話だけで会話ができるようになってうれしかったです。梶本さんも『ありがとう』と喜んでくれて、その5文字が心に沁みました」
撮影を進めるうち、自身の考え方に変化があったという。
「ろう者の世界を理解したくて、耳を塞いで生活してみると、周りで何が起きているのか全く分からない。劇中に『2つの世界がある』というセリフがあって、ろう者と聴者の世界は分かれているという意味ですが、2つだけでもないと思うんです。僕は、手話に触れることで新しい扉を開くことができた。世界が広がったんです。さまざまな世界がある中で、ひとつになるのは難しいことですが、交わる部分が増えたり、お互いの輪が少しでも多く重なる世界になっていけばいいなと思います」
習得した手話をどんなことに生かしてみたい?
「ろう者の方が、駅で会話しているのを見かけます。もし困っている人がいたら、手を差し伸べたい。そのためにも勉強を続けたいです」
本作は2回、公開延期に
役者として舞台に立つ機会が多いが、コロナ禍でスケジュール変更を余儀なくされている。実は本作も2回、公開延期になった。
「悲しいとか悔しい気持ちは誰もが抱いている。ステイホームの日々は、皆が競い合う芸能界で埋もれてしまわないように、上を目指すための準備期間。無駄な時間をつくらないことがモチベーションにつながっています」
織部は俳優だけでなく、5人組ダンスヴォーカルグループ「銀河団」のメンバーとして活動している。
「『銀河団』は劇団から生まれたグループで、全員役者というのが僕らの強みです。その中でも個性も全然違いますし、5人はとてつもなく仲が良いんです。時節柄、パフォーマンスをなかなか披露できないのが悔しいですが、落ち着いたらもっと活動の幅を広げていきたいです」
早くマスクのない日常に戻ってほしい。
(取材・文=白井杏奈/日刊ゲンダイ)
▽おりべ・よしなり 2000年生まれ、大阪府出身。「劇団番町ボーイズ☆」、ダンスボーカルグループ「銀河団」のメンバーで俳優やアーティストとして活躍する。15年、TOKYO MX「ひるキュン!」月曜レギュラーでお天気お兄さんを務める。21年、舞台「This is お感情博士!」など多数出演。