著者のコラム一覧
大竹聡ライター

1963年、東京都生まれ。早稲田大学第二文学部卒業後、出版社、広告代理店、編集プロダクションなどを経てフリーに。2002年には仲間と共にミニコミ誌「酒とつまみ」を創刊した。主な著書に「酒呑まれ」「ずぶ六の四季」「レモンサワー」「五〇年酒場へ行こう」「最高の日本酒」「多摩川飲み下り」「酒場とコロナ」など。酒、酒場にまつわるエッセイ、レポート、小説などを執筆。月刊誌「あまから手帖」にて関西のバーについてのエッセイ「クロージング・タイム」を、マネーポストWEBにて「大竹聡の昼酒御免!」を連載中。

(8)京王線随一の焼き鳥

公開日: 更新日:

 新宿と東京の南西部を結ぶ京王線の本線は、23区内を出ると調布市、府中市を過ぎ、多摩市をかすめて日野市、八王子市へと走る。私は、世田谷と調布の境を越えた仙川駅から2キロほど離れた公団住宅で生まれ育った。住所で言うと三鷹市である。

 東京都内と言われる23区と島嶼部を除く東京の西部(一部23区内も含まれる)は、明治26年に東京府に移管されるまで神奈川県だった。三鷹も調布も八王子も、桧原村や奥多摩町も、神奈川県だった。私はそのことを2010年に奥多摩駅近くの酒場で教わったが、それ以前から、オータケさんは東京人でしょ、と言われると違和感を覚えてきた。かつて神奈川だった広大なエリアは北多摩郡、南多摩郡、西多摩郡という三つの多摩と呼ばれる地域であって、東京とはニュアンスがだいぶ異なる。ましてや江戸などではない。私は、言うなれば、東京人ではなく多摩人だ。

 ところで、「京王線随一のやきとりの店」を標ぼうする店がある。場所は、新宿でも笹塚でも下高井戸でも調布でも、府中ですらない。もっと先、京王線が多摩川を渡り、聖蹟桜ヶ丘を過ぎ、高幡不動を過ぎたその先の、南平という駅の、駅前にある。

 この駅、令和の今も、ロータリーすらない。各駅停車だけが停まる。その線路の脇に、「やきとり よっちゃん」はある。

 知ったのは、20年以ほど前だ。当時の私は、『酒とつまみ』という雑誌を創刊し、誌上で「ホッピーマラソン」という連載を執筆していた。東京駅から高尾駅まで中央線の各駅で下車してホッピーを飲み、それが済むと今度は、高尾から新宿目指して京王線で帰ってこようということになった。頭がどうかしていた時代の企画だが、ある日南平駅で下車した私は、駅の改札まで匂ってきそうなもつ焼きの匂いに誘われて、この店に入ったのだった。

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