著者のコラム一覧
荒木経惟写真家

1940年、東京生まれ。千葉大工学部卒。電通を経て、72年にフリーの写真家となる。国内外で多数の個展を開催。2008年、オーストリア政府から最高位の「科学・芸術勲章」を叙勲。写真集・著作は550冊以上。近著に傘寿記念の書籍「荒木経惟、写真に生きる。荒木経惟、写真に生きる。 (撮影・野村佐紀子)

<67>三四郎池で出会った光景 人生ではノスタルジーが一番大事なんだね

公開日: 更新日:

 これはね、“三四郎池”で撮った写真なんだよ。東京という大都会の真ん中の東大本郷(東京大学本郷キャンパス)にある三四郎池ですよ、ここは。小さな沼みたいなとこだから、決してキレイなところじゃないんだけど、そこにパーって光がきてね。写真の原点っていうかさ、写真もこうじゃなくっちゃいけない! 人生もこうじゃなくちゃいけない! っていうことですよ。なんでも光なんだよ(笑)。

がんになって東大病院に行かなかったら、こんな光景に出会わなかった

 この写真を撮ったのは、前立腺がん手術(2008年)を受けた後なんだよ。大学は、東大に行けなかったからさぁ(笑)。ザリガニ獲りに東大に行ってたなんて言ったりしてたけど、本当はこのときに初めて本郷に行ったんだよ。(都立)上野高校卒なのに(笑)。立花隆じゃないけど、「がんになってよかった」っていうこともあるんだよ。だって、がんになって東大病院に放射線治療に行かなかったら、こんな光景に出会わなかったんだから。昭和みたいな格好の子どもが遊んでたんだよ、三四郎池で。(ジャーナリストでノンフィクション作家の立花隆と荒木は上野高校の同級生。立花は本年4月に急性冠症候群のため80歳で永眠。2007年に膀胱がんを患い、「がんの最前線」を取材、テレビ番組も制作された。連載55に<立花隆>掲載)。


「たけくらべ」が写っちゃってんだから

 自分を見たとかなんとかじゃないけど、オレのはじまりが「さっちん」じゃない(荒木は1964年に大学時代から撮影していた「さっちん」で第1回太陽賞を受賞)。坊主頭にしたら「さっちん」はオレなのよ。そっくりなの。それとこの女の子、(樋口)一葉の『たけくらべ』じゃないけど、美登利に見えてきたり、男の子が信如じゃないかって思えたりすんのよ。不思議でしょうがないんだよ。『たけくらべ』が写っちゃってんだから、ここに。『たけくらべ』は(台東区)入谷だろ、オレは三ノ輪だからね。

 写真は光が作るんだってことだね。こんときは、なんかもう、ざわめきがあったもんなぁ。それで結局、写真はノスタルジーである! っていうことだね。写真っていうのは、まあ写真つーか人生は、ノスタルジーだと確信をもったんだね。こういう光景に出会って。デジタルの時代にさ、都会の真ん中でこういう棒をもって、ザリガニだか鯉を追ってるんだよ。少年時代の思い出とかさ、人生ではそういうノスタルジーが一番大切なんだね。

(構成=内田真由美)

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • 芸能のアクセスランキング

  1. 1

    亡き長嶋茂雄さんの長男一茂は「相続放棄」発言の過去…身内トラブルと《10年以上顔を合わせていない》家族関係

  2. 2

    上白石萌音・萌歌姉妹が鹿児島から上京して高校受験した実践学園の偏差値 大学はそれぞれ別へ

  3. 3

    「時代と寝た男」加納典明(17)病室のTVで見た山口百恵に衝撃を受け、4年間の移住生活にピリオド

  4. 4

    中居正広氏に降りかかる「自己破産」の危機…フジテレビから数十億円規模損害賠償の“標的”に?

  5. 5

    備蓄米報道でも連日登場…スーパー「アキダイ」はなぜテレビ局から重宝される?

  1. 6

    “バカ息子”落書き騒動から続く江角マキコのお騒がせ遍歴…今度は息子の母校と訴訟沙汰

  2. 7

    “名門小学校”から渋幕に進んだ秀才・田中圭が東大受験をしなかったワケ 教育熱心な母の影響

  3. 8

    女子学院から東大文Ⅲに進んだ膳場貴子が“進振り”で医学部を目指したナゾ

  4. 9

    「こっちのけんと」の両親が「深イイ話」出演でも菅田将暉の親であることを明かさなかった深〜いワケ

  5. 10

    長嶋一茂が父・茂雄さんの訃報を真っ先に伝えた“芸能界の恩人”…ブレークを見抜いた明石家さんまの慧眼

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース佐々木朗希に向けられる“疑いの目”…逃げ癖ついたロッテ時代はチーム内で信頼されず

  2. 2

    ドジャース佐々木朗希の離脱は「オオカミ少年」の自業自得…ロッテ時代から繰り返した悪癖のツケ

  3. 3

    備蓄米報道でも連日登場…スーパー「アキダイ」はなぜテレビ局から重宝される?

  4. 4

    上白石萌音・萌歌姉妹が鹿児島から上京して高校受験した実践学園の偏差値 大学はそれぞれ別へ

  5. 5

    “名門小学校”から渋幕に進んだ秀才・田中圭が東大受験をしなかったワケ 教育熱心な母の影響

  1. 6

    大阪万博“唯一の目玉”水上ショーもはや再開不能…レジオネラ菌が指針値の20倍から約50倍に!

  2. 7

    今秋ドラフト候補が女子中学生への性犯罪容疑で逮捕…プロ、アマ球界への小さくない波紋

  3. 8

    星野源「ガッキーとの夜の幸せタイム」告白で注目される“デマ騒動”&体調不良説との「因果関係」

  4. 9

    女子学院から東大文Ⅲに進んだ膳場貴子が“進振り”で医学部を目指したナゾ

  5. 10

    “貧弱”佐々木朗希は今季絶望まである…右肩痛は原因不明でお手上げ、引退に追い込まれるケースも