著者のコラム一覧
北島純映画評論家

映画評論家。社会構想大学院大学教授。東京大学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。駐日デンマーク大使館上席戦略担当官を経て、経済社会システム総合研究所(IESS)客員研究主幹を兼務。政治映画、北欧映画に詳しい。

映画が描いた「腐敗」のリアル コンプライアンスの専門家が薦める必見3作品

公開日: 更新日:

風刺ドラマ「国民の僕(しもべ)に主演したゼレンスキー大統領

 もうひとつ見逃せないのがマーティン・スコセッシ監督の「ウルフ・オブ・ウォールストリート」(13年)。ジャンク株を売りさばいて貯金ゼロから年収49億円にのし上がった伝説の株ブローカーによる株価操縦と資金洗浄を描き、1990年代のウォール街のらんちきをレオナルド・ディカプリオが好演している。

 実はこの映画、史上最大の汚職(外国公務員贈賄)事件として知られるマレーシアの1MDB事件が絡んでいる。ゴールドマン・サックスのマレーシア現地法人が政府系不動産開発会社1MDBの社債発行に関し、便宜を受けたお礼として16億ドル相当の賄賂をばらまいた。うち7億ドルが当時の最高権力者ナジブ首相に渡り、さらにその一部(2.5億ドル)が映画好きのナジブの女婿リザ・アジズによって、この映画の製作費に流用された。ともに逮捕され、ナジブ元首相は8月23日、禁錮12年罰金2.1億リンギット(約63億円)の判決が確定。史上最大規模の賄賂が原資であると知って見るとディカプリオの演技は味わい深い。とくに酩酊状態でランボルギーニに乗り込むシーンは、オスカーを獲得した「レヴェナント 蘇えりし者」を凌駕するディカプリオ史上最高の演技だ。

 腐敗といえば、親ロ派ヤヌコビッチ元大統領が公金横領などで国に10兆円の損害を与えたともいわれるウクライナは腐敗の最前線でもある。政治の腐敗を批判した歴史教師が大統領に選出される風刺ドラマ「国民の僕」(15~19年)に主演したのが俳優だったゼレンスキー大統領。同名の政党「国民の僕」を設立し19年の大統領選で圧勝、演劇を現実に昇華させる大芝居を見せた。

 最初はウクライナ流演出に戸惑うが、慣れるとハマる。腐敗の帝王プーチンによる再度のウクライナ侵略に対して徹底抗戦しているゼレンスキー大統領。その生みの親たるドラマ「国民の僕」も必見だ(いずれもNetflixで配信中)。

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    世良公則氏やラサール石井氏らが“古希目前”で参院選出馬のナゼ…カネと名誉よりも大きな「ある理由」

  2. 2

    新横綱・大の里の筆頭対抗馬は“あの力士”…過去戦績は6勝2敗、幕内の土俵で唯一勝ち越し

  3. 3

    年収1億円の大人気コスプレーヤーえなこが“9年間自分を支えてくれた存在”をたった4文字で表現

  4. 4

    浜田省吾の父親が「生き地獄」の広島に向ったA.A.B.から80年

  5. 5

    山尾志桜里氏は出馬会見翌日に公認取り消し…今井絵理子、生稲晃子…“芸能界出身”女性政治家の醜聞と凄まじい嫌われぶり

  1. 6

    「徹子の部屋」「オールナイトニッポン」に出演…三笠宮家の彬子女王が皇室史を変えたワケ

  2. 7

    “お荷物”佐々木朗希のマイナー落ちはド軍にとっても“好都合”の理由とは?

  3. 8

    ドジャース佐々木朗希 球団内で「不純物認定」は時間の問題?

  4. 9

    くら寿司への迷惑行為 16歳少年の“悪ふざけ”が招くとてつもない代償

  5. 10

    フジ親会社・金光修前社長の呆れた二枚舌…会長職辞退も「有酬アドバイザー」就任の不可解