追悼・唐十郎さん 日本の現代演劇を変革した不世出の天才は寺山修司と命日が同じに

公開日: 更新日:

 去る5月4日に急性硬膜下血腫のため都内の病院で亡くなった劇作家・演出家・俳優の唐十郎(享年84)の葬儀・告別式が14日、東京・杉並区の堀ノ内斎場で営まれ、関係者やファンが参列し、故人との別れを惜しんだ。

 唐が日本の演劇界に与えた影響は絶大で、戦後の現代演劇は「唐以前、唐以降」に分けられるといっても過言ではない。

 1963年にサルトルの評論集のタイトルから取った「シチュエーションの会」(翌年、状況劇場と改名)を旗揚げし、街頭劇を経て、67年に新宿・花園神社境内に紅テントをひっさげて登場、「腰巻お仙・義理人情いろはにほへと篇」を上演した。

 訓練された俳優術ではなく、役者の個性に根ざす独自の演劇論「特権的肉体論」は麿赤兒、大久保鷹、根津甚八、小林薫ら怪優、奇優、名優を輩出した。 

 若者の熱狂的な支持を受け、旧態依然とした新劇に対抗するアングラ(アンダーグラウンド)演劇の旗手として、寺山修司の「演劇実験室・天井桟敷」、鈴木忠志の「早稲田小劇場」、佐藤信の「黒テント」と共に4大アングラ劇団のひとつとして華々しく活動した。

 “オカマ”が闊歩する下谷万年町(現在の上野界隈)で生を受け、「鳥の眼(俯瞰)」ではなく、「虫の眼」で見た猥雑で幻想的なロマンチシズムあふれる物語を紡ぎ出した。

 テント幕が跳ね上がり、借景へと主人公が飛翔するクライマックスのスペクタクルは70年安保を前に燃え上がった全共闘運動に連動する観客に強烈なショックを与えた。

 世間の常識や良識に対して果敢に斬り込む唐は数多くの武勇伝を残している。

「新宿騒乱」の68年、「腰巻」というタイトルや芝居の猥雑さに花園神社の氏子たちが難色を示すと、反発した唐は「新宿見たけりゃ今見ておきゃれ じきに新宿 原となる」の捨てぜりふを残して花園神社と決別。翌69年1月、東京都の中止命令を無視し、新宿西口中央公園でテントの周りを200人の機動隊が取り囲む中、決行した「腰巻お仙 振袖火事の巻」では、終演と同時になだれ込んだ警官によって唐は逮捕された。

 同年にはささいな誤解が招いた天井桟敷との乱闘事件を起こし、73年には初演出したテレビドラマ「汚れた天使」が、テレビ局の上層部の「こんな非常識でわけがわからない作品は放送するわけにはいかない」という判断で放送中止になり、唐と出演者の中村敦夫は記者会見を開き、抗議声明を出した。また、出演者の李礼仙、常田富士男、東野英治郎は「今後、一切、系列テレビには出演しない」と記者会見で宣言し、佐藤慶、小松方正、熊倉一雄、石橋蓮司らが同調した。

 76年の映画「任侠外伝・玄海灘」では洋上ロケ中に実弾を発射して銃刀法及び火薬類取締法違反容疑で逮捕された。

 72年には戒厳令下の韓国に極秘裏に渡航し、抵抗詩人・金芝河との合同公演を計画。翌73年にはバングラデシュのダッカ、チッタゴンで、74年にはレバノン、シリアの難民キャンプで公演決行するなど、唐の活動は世界を股にかけた。

■関連キーワード

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • 芸能のアクセスランキング

  1. 1

    「汽車を待つ君の横で時計を気にした駅」は一体どこなのか?

  2. 2

    沢口靖子「絶対零度」が月9ワースト目前の“戦犯”はフジテレビ? 二匹目のドジョウ狙うも大誤算

  3. 3

    国分太一が「世界くらべてみたら」の収録現場で見せていた“暴君ぶり”と“セクハラ発言”の闇

  4. 4

    遠山景織子の結婚で思い出される“息子の父”山本淳一の存在 アイドルに未練タラタラも、哀しすぎる現在地

  5. 5

    国分太一は人権救済求め「窮状」を訴えるが…5億円自宅に土地、推定年収2億円超の“勝ち組セレブ”ぶりも明らかに

  1. 6

    “裸の王様”と化した三谷幸喜…フジテレビが社運を懸けたドラマが大コケ危機

  2. 7

    森下千里氏が「環境大臣政務官」に“スピード出世”! 今井絵理子氏、生稲晃子氏ら先輩タレント議員を脅かす議員内序列と評判

  3. 8

    大食いタレント高橋ちなりさん死去…元フードファイターが明かした壮絶な摂食障害告白ブログが話題

  4. 9

    菅田将暉「もしがく」不発の元凶はフジテレビの“保守路線”…豪華キャスト&主題歌も昭和感ゼロで逆効果

  5. 10

    人権救済を申し立てた国分太一を横目に…元TOKIOリーダー城島茂が始めていた“通販ビジネス”

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    渋野日向子に「ジャンボ尾崎に弟子入り」のススメ…国内3試合目は50人中ブービー終戦

  2. 2

    国分太一が「世界くらべてみたら」の収録現場で見せていた“暴君ぶり”と“セクハラ発言”の闇

  3. 3

    ソフトバンクは「一番得をした」…佐々木麟太郎の“損失見込み”を上回る好選定

  4. 4

    国分太一は人権救済求め「窮状」を訴えるが…5億円自宅に土地、推定年収2億円超の“勝ち組セレブ”ぶりも明らかに

  5. 5

    人権救済を申し立てた国分太一を横目に…元TOKIOリーダー城島茂が始めていた“通販ビジネス”

  1. 6

    阪神「次の二軍監督」候補に挙がる2人の大物OB…人選の大前提は“藤川野球”にマッチすること

  2. 7

    沢口靖子「絶対零度」が月9ワースト目前の“戦犯”はフジテレビ? 二匹目のドジョウ狙うも大誤算

  3. 8

    ソフトバンクに「スタメン定着後すぐアラサー」の悪循環…来季も“全員揃わない年”にならないか

  4. 9

    巨人・桑田二軍監督の電撃退団は“事実上のクビ”…真相は「優勝したのに国際部への異動を打診されていた」

  5. 10

    小泉“セクシー”防衛相からやっぱり「進次郎構文」が! 殺人兵器輸出が「平和国家の理念と整合」の意味不明