著者のコラム一覧
松尾潔音楽プロデューサー

1968年、福岡県出身。早稲田大学卒。音楽プロデューサー、作詞家、作曲家。MISIA、宇多田ヒカルのデビューにブレーンとして参加。プロデューサー、ソングライターとして、平井堅、CHEMISTRY、SMAP、JUJUらを手がける。EXILE「Ti Amo」(作詞・作曲)で第50回日本レコード大賞「大賞」を受賞。2022年12月、「帰郷」(天童よしみ)で第55回日本作詩大賞受賞。

R&B愛好者の底力を感じた3日間。「いま本当にパリでは五輪なんてやっているのか?」という疑問が…

公開日: 更新日:

 28年前の「その日」、ぼくは当時の定宿だったロサンゼルス・サンタモニカのホテルのひなびたバーにいた。カウンターにもたれかかり、天井から吊るされたテレビの小さな画面に見入っていた。映し出されるのはもちろん開会式。ジャム&ルイスの新曲が聴けるという情報を、ぼくは現地の音楽関係者から聞いて知った。まだインターネットの個人利用が一般的ではない時代、口コミこそが最速の情報収集源だった。

 喉は渇いてばかり。薄いビールを何杯かおかわりして、居合わせた宿泊客たちと乾杯を何度かくり返した。自分と同じ肌の色をした客はほかにはいない。ついに始まったね、アトランタ・オリンピック。ぼくがそうつぶやくと、最も濃い色の肌を持った男性が言った。

「アトランタ・オリンピックと呼ぶのは間違いじゃないけど、文字通りの意味だけなら十分とはいえない。これはダーティ・サウス(イケてる南部の)オリンピック、そう、ブラック・オリンピックなんだ」

 それまで米国で夏季五輪は3回行われたが、南部での開催は今回のジョージア州アトランタが初めて。それは初めての「黒人五輪」も意味するというのが彼の言い分だ。ときの大統領は民主党のビル・クリントン。76年の大統領選では、元ジョージア州知事ジミー・カーターの選挙スタッフだった、ジャズサックスの得意な男だった。このハンサムガイは、翌97年にセクハラ訴訟を起こされ、さらにその翌年には弾劾裁判にまでかけられる……余談が過ぎたようだ。とにかく今になって思うのは、あの夏ぼくは五輪開催にさほど抵抗を覚えていなかったということだ。

■関連キーワード

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    二階堂ふみと電撃婚したカズレーザーの超個性派言行録…「頑張らない」をモットーに年間200冊を読破

  2. 2

    参政党・梅村みずほ議員の“怖すぎる”言論弾圧…「西麻布の母」名乗るX匿名アカに訴訟チラつかせ口封じ

  3. 3

    キンプリ永瀬廉が大阪学芸高から日出高校に転校することになった家庭事情 大学は明治学院に進学

  4. 4

    さらなる地獄だったあの日々、痛みを訴えた脇の下のビー玉サイズのシコリをギュッと握りつぶされて…

  5. 5

    横浜・村田監督が3年前のパワハラ騒動を語る「選手が『気にしないで行きましょう』と…」

  1. 6

    山本舞香が義兄Takaとイチャつき写真公開で物議…炎上商法かそれとも?過去には"ブラコン"堂々公言

  2. 7

    萩生田光一氏に問われる「出処進退」のブーメラン…自民裏金事件で政策秘書が略式起訴「罰金30万円」

  3. 8

    二階堂ふみ&カズレーザー電撃婚で浮上したナゾ…「翔んで埼玉」と屈指の進学校・熊谷高校の関係は?

  4. 9

    上白石萌音・萌歌姉妹が鹿児島から上京して高校受験した実践学園の偏差値 大学はそれぞれ別へ

  5. 10

    日本ハム中田翔「暴力事件」一部始終とその深層 後輩投手の顔面にこうして拳を振り上げた