ブリは焼くひと手間でうま味を封じ込め老化を防ぐ

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旬を食す(1)ブリ

「ブリ起こし」という言葉があります。12月から1月にかけて北陸の日本海側で発生する雷のことで、土地の人たちは「ブリ起こし」が鳴ると、寒ブリのシーズンがやってきたと実感するそうです。

 ブリには魚の脂肪に多く含まれるオメガ3の中でもDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)が豊富です。DHAやEPAには老化防止作用があり、DHAは主に脳や目、EPAは血管や血液を老けさせません。中でもいまが旬のブリには脂がのっていますから、それだけオメガ3が豊富です。

 今回はブリ料理の定番とも言えるブリ大根と照り焼きです。

 ブリ大根のポイントは最初にブリの両面を焼くこと。こうすることで魚臭さがなくなるうえ、煮崩れを防ぎ、なおかつブリの持つうま味を封じ込められるからです。このひと手間が、出来上がりを大きく左右します。塩分を控え、素材本来のうま味を味わうことは、不老不死レストランの大きなテーマでもあります。

 煮物は味の入ったものを温め直すことによってより味がしみ、おいしく召し上がれます。ブリ大根もしかりです。

 照り焼きは焼くときも盛り付けるときも腹側を右にします。魚の切り身の盛り付けは背側を左にするという決まりごとがあるうえ、上下を返す手間を最小限に抑えて焼き崩れを防ぎたいからです。

■ブリ大根

《材料》
◎ブリかま  1切れ分を3つに切る
◎ブリ切り身  1切れを3つに切る
◎ごま油  大さじ1
◎大根  10センチを大きめの乱切り
◎生姜薄切り  10枚
◎三温糖  大さじ2
◎水  2カップ
◎酒  2分の1カップ
◎しょうゆ  大さじ2
◎生姜千切り  大さじ1(水にさらし、水を切ったもの。これが針生姜)

《作り方》
(1)厚手の鍋にごま油を引き、中火で熱し、ブリの両面を焼き(写真右)、取り出す。大根の全体をさっと焼いたらブリを戻し、生姜の薄切り、三温糖を加えさっと混ぜる。
(2)水を加えて煮立てたらアクをすくい、酒を加えて蓋をし、弱火で15分煮る。いったん火を切り、蓋をしたまま室温になるまで置くと、味が中まで入る。
(3)再度温め、味をみてしょうゆを加え、さっと沸かしたら盛り付け、針生姜を添える。

■簡単照り焼き

 ブリ腹側2切れを酒、みりん各大さじ2、しょうゆ大さじ3に15分漬ける。ごま油大さじ1を中火で熱したフライパンに、ブリの腹側が右になるよう盛り付ける面から中火の弱で蓋をして焼く。上下を返したら、背側が左になるように盛り付ける。

▽松田美智子(まつだ・みちこ)女子美術大学非常勤講師、日本雑穀協会理事。ホルトハウス房子に師事。総菜からもてなし料理まで、和洋中のジャンルを超えて、幅広く提案する。自身でもテーブルウエア「自在道具」シリーズをプロデュース。著書に「季節の仕事 」「調味料の効能と料理法」など。

良質になった「養殖モノ」への意識を変えるべき

 脂がたっぷりのったブリと味のしみた大根。これと白いご飯があれば至福のひととき。日本の食文化の粋ともいえる。

 魚ヘンに師とかいて鰤と読ませるが、これは一説には、師走の頃、脂がのって旬を迎える魚だから、といわれている。

 この季節、脂がのるのは、このあとの産卵期に備えて、たくさん餌を食べて太るため。いわゆるぷりぷりの寒ブリである。ちなみにブリの卵は鰤子と呼ばれ、これも美味である。ブリの親戚としてヒラマサ、カンパチなどがあるが、ブリの方が断然、脂がのっている。

 ブリは成長とともに名前が変わる出世魚。そのため縁起物としても重宝される食材。関東地方ではモジャコ↓ワカシ↓イナダ↓ワラサ↓ブリとなる。

 ブリは近年では蓄養で生産される割合が大きい。沖合の外洋に筏を係留していけすを張り、この中で2年から3年養殖される。外洋の速い流れにさらされるため、魚の運動量が増え、身がよく引き締まる。また、沿岸で起こりやすい赤潮の被害から免れ、餌(これは栄養素のバランスが整ったペレット飼料が与えられる)の残留や寄生虫も減り、良質なブリが生産できるようになった。蓄養は、水産資源の持続的な管理の面でも重要な方法であり、私たち消費者も「養殖モノ」に対する意識を変える必要がある。

▽福岡伸一(ふくおか・しんいち)1956年東京生まれ。京大卒。米ハーバード大医学部博士研究員、京大助教授などを経て青学大教授・米ロックフェラー大客員教授。「動的平衡」「芸術と科学のあいだ」「フェルメール 光の王国 」をはじめ著書多数。80万部を超えるベストセラーとなった「生物と無生物のあいだ」は、朝日新聞が識者に実施したアンケート「平成の30冊」にも選ばれた。

※この料理を「お店で出したい」という方は(froufushi@nk-gendai.co.jp)までご連絡ください。

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