全米最悪の失業率21%超 ハワイアンキリギリスの大量生産も

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 2020年4月に入ると、ハワイでも多くの人がマスクをつけるようになっており、ホノルル市のカーク・コールドウェル市長もオアフ島の全住民に対し外出時はマスクを着用すべしと強く推奨する声明を出しました(同20日に義務化)。そして、観光局の極めて異例な事態として特筆すべきなのが、当時のハワイ州観光局のジョン・モナハン局長。彼はあらゆる出版社に「ハワイ旅行を宣伝しないように」との手紙を送り、プロモーションの中止を勧告します。通常であればゴールデンウィークや夏休みに向けて、観光宣伝を推進し強化すべき4月に、様子見でなく厳然と自粛を求めた観光局の対応は正しかったと思います。

「コロナはただの風邪派」と「コロナは危険派」で喧々諤々ありますが、コロナ禍以前から医師と看護師不足に悩まされてきたこの島国において、医療崩壊だけは避けなければなりません。しかしながらハワイ州は半年近くロックダウンしたにも関わらず州内のICU病床の使用率は、現在でも9割を下らない状況です。コロナに対する危険性への認識やすり合わせの是非よりも、まずは断固として島内の人数を物理的に減らして感染者を防ぐ、ということが非常に肝要だったわけです。

■進むも地獄、退くも地獄

 そしてハワイの現地時間4月9日、ハワイから日本へのすべての便がキャンセルされます。ZETTON INC.の稲本健一代表取締役会長は同8日のFacebookにおける投稿で、ハワイで展開する飲食事業のスタッフに対する苦しい胸のうちを「もう彼らの家族に何があろうが彼ら自身に何があろうが明日からは日本に戻ることはできません、もちろん我々が助けに行く事もできません」と吐露。強制的にスタッフを帰国すべきだったのかとギリギリまで逡巡し、最終的にハワイに残ることはスタッフの意思で決まりましたが、「進むも地獄、退くも地獄」とはまさにこのこと。

 他にもホノルルで一番おいしいタパスが食べられると人気の「Rigo SPANISH ITALIAN」(六本木ヒルズの「リゴレット」や代官山の「アシエンダデルシエロ」の系列店)は昨年開店したばかりですが、用田征弘料理長が孤軍奮闘で朝から晩までテークアウトの作業に追われています。スタッフを強制帰国させるか、留まらせるか、もしくは休業するかテークアウトでお店を開け続けるか。日本からの進出が多いオアフ島の日系飲食店は、いつ再開できるともしれないなか、短い期間で決断を迫られ相当なストレスのなかで、1日1日を凌ぐことを余儀なくされています。

 短期戦なのか長期戦なのか、五里霧中の暗中模索、前進しているのか後退しているのか判らぬまま、これが正しいと信じて進むしかない状況ですが、4月中旬の段階では、まだ夏には正常化しているのではないかという見方が多かったように思います。

■全労働者の3人に1人が失業保険を申請

 観光業が基幹のハワイ州において、このような州中枢の足並みを揃えた迅速な動きが功を奏し、4月20日にはオアフ島でロックダウン後に初めて新規感染者がゼロになります。25日の時点で良くも悪くも観光客の98%が減少という結果をもたらしましたが、2月には2.7%だったハワイの失業率を一気に、21.7%という全米最悪の数値にまで押し上げてしまいます。

 労働産業関係局(DLIR)によると、3月1日~4月15日に申請された失業保険の件数は24万4330件。全労働者の37%に達しており、就業していた人の4割弱が職を失ったか労働時間が減らされていることがわかっています。3人に1人が失業保険を申請している状況は、日本でも悲観的に語られることが多かったのですが、実際は先述の連邦パンデミック失業補償で通常の失業保険に加え、月2400ドル(約25万3000円)が最高4カ月も給付されている人もいたのです。

 例えば、私の夫は時給15ドル(約1580円)で週5日、1日8時間労働をしていたので、コロナ禍以前の月収は額面で2400ドル。しかし働かずとも通常の失業保険(週560ドル=約5万9000円)に加えて、手取りの同額もしくはそれ以上の給付金が受け取れるようになったわけです。ただし、我が家に限ってはあくまで仮定の話。というのも、夫は「もっと困っている人がいるのに、他の人に悪い」とかいう理由で申請しておらず、いやいやいやいやいやいやいや、あなた無職だよ、「YOU ARE POOR AND FATHER!!」と諭したら、ようやく申請終了月に申請したという、矛先矛盾の無欲(ポンコツ)っぷり……。

 しかしながら、このようなパンデミック下における手厚い特別対策は、被保険者による就業意欲の低下を招き、危険な業務に従事しているエッセンシャルワーカーの方々にとっての不公平感が拭えないため、常に批判が絶えなかった上、コロナバブルと呼んで“ハワイアンキリギリス”が大量生産されたのも事実です。そんななか、5月18日にイゲ州知事は徐々に規制を緩和する4段階の経済再開計画(9月現在、Honolulu Reopening Strategyとして改題)を発表し、コロナとの戦いで破綻し疲弊した州全体の犠牲の上に、新規感染者を減少させたことに言及しながら、フェーズ1の現在では小売店の営業が可能な経済再開の第一局面であることを表明。今後、フェーズ2にて10名以上の集会は禁止しつつもカマアイナ(その土地に住む人という意)経済を回すということで、中程度の感染リスクである企業と組織、そしてアクティビティーに関しては、再開を許可することにしました。

リケリケ・ドライブイン、トップオブワイキキの閉店

 これには外出禁止令を5月30日まで延長した上で、同7日から「外出安全令」(Safer-At-Home order)に緩和しているという背景もありました。そして島内で経済を回していくにも限界があるということで、今現在の目標としては復興期であるフェーズ3にて、ハワイの経済再建を見据えた長期戦の構えを示しました。ただ、フェーズ3でも高リスクに分類されるバーやクラブの再開は認めていないので、最終段階であるフェーズ4に至るまでに少なくとも、来夏までかかるのではないかと思われます。

 しかしこの頃、67年に渡ってロコに愛されてきた『リケリケ・ドライブイン』、そして55年間もワイキキの中心に君臨し観光客の夜遊びアイコンだったバー&クラブ『トップオブワイキキ』が閉店してしまいます。老舗かつシンボル的なお店が閉店というニュースは衝撃的で、改めて非常事態ということを痛感するニュースでした。レストランやクラブ、バーが築き上げてきた街の文化が断絶するという、前述した飲食業界の雄たちが恐れていた取り返しのつかない損失は、どんどん現実になっていきました。

 このような5月というのは、実は、ほぼほぼ感染者が抑えられていた月で、ハワイ州全体で感染者ゼロの日が7日間もありました。州政府は「復興のその先へ:再開戦略」(Beyond Recovery: Reopening Strategy)にて、ハワイ州のステータスを5つのレベルに分けて現状説明しています。まず赤が「外出禁止(STAY AT HOME)」、オレンジが「お家で安全に(SAFER AT HOME)」、黄色が「意識的な行動を(ACT WITH CARE)」、緑が「復興(RECOVERY)」、そして青が「ニューノーマル(NEW NORMAL)」。この5段階で今のハワイを信号のように表示しているので、気になった方は特設サイトでチェックしてみてください(※)。

■州在住者のみ自己隔離免除 カマアイナ経済を重視

 その際、14日間の自己隔離も引き続き6月末まで延長されましたが、その2週間後の6月1日に、朗報が! 同16日から島内間の移動をするハワイ州在住者に限り、14日間の自己隔離が免除されることになったのです(空港での体温測定と書類記入は義務)。しかしその9日後の10日、依然として在住者以外の自己隔離は7月末まで延長しており、ハワイ州内でのカマアイナ経済をまずは重視したということが読み取れます。

 6月の時点では、ハワイ州政府としてもコロナの押さえ込みに自信を見せていたこともあり、19日から段階的に同居していない人を含む10名までの屋内での集まりも可能になりました。そして24日には、COVID-19事前検査プログラムの導入を8月1日から始めることが発表されました。これは出発72時間以内の陰性証明があれば、14日間の自己隔離が免除されるというものです。

 この頃になると、ハワイ州全体でも終わりが見えてきた希望的観測ムードが漂い始めており、観光業再開は早くて夏の終わりという論調さえ出てきていました。ただこれはアメリカ本土に向けての緩和であり、日本からの旅行者を視野に入れたものではありません。やはり渡航先で14日間の自己隔離がなくなったとしても、帰国してからの自己隔離が高いハードルとなっているということで、ここにきてトラベルバブル構想が選択肢に浮上してきました。

 これは新型コロナを押さえ込んでいる国同士が大きな泡のなかで、お互いに責任を持って新規感染を防止しつつ旅行を再開するという取り組みで、観光業が基幹のハワイでも日本語メディア6誌(ハワイに住む、KAUKAU、アロハストリート、ハワイ報知、ライトハウスハワイ、日刊サン)が自己隔離なしの行き来を再開させようという署名活動を行っているものです。このように明るい話題が人々の口に上り始めた途端、またロックダウンどころか、それ以上に人々の希望を叩き潰すニュースが入ってきます。=つづく

(※)特設サイト:「Reopening Status」

▽鮓谷裕美子(すしたに・ゆみこ) ハワイ島在住の編集者・ライター。上智大学英文学科を卒業後、「NIKITA」(主婦と生活社)、「東京カレンダー」を渡り歩き、食べログマガジン編集長として立ち上げから関わる。守備範囲は西洋・東洋古典文学から食とエロスまで。

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