ホリエモンのSNS発信で餃子店休業 書き込みは訴えられる?

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「Go To トラベル」を巡って大混乱しているが、今月からは「Go To イート」も始まり、グルメサイトを活用する機会も多くなった。ネットの予約サイトといえば、口コミ欄が付いているのも特徴で、他人が「後押し」している宿や店は選ぶ決め手にもなる。だが、書き込みには気を付けなければならない――。

  ◇  ◇  ◇

 ホリエモンこと実業家の堀江貴文氏が広島・尾道の有名餃子店とのトラブルをSNSに発信し、店側が休業に追い込まれる騒ぎになっている。

 餃子店を訪れた堀江氏の同行者がマスクをしておらず、着用を巡って揉め、来店拒否に。そこでSNSに「マジでやばいコロナ脳。狂ってる」などとつぶやき炎上した。

 堀江氏は書き込む際に名指しではなかったが、エリアや「数字から始まる名前の某餃子店」と特定できる情報をちりばめていた。

 ネットの書き込みを通じたトラブルはたびたび起きている。2017年には石川県の居酒屋がネット上の誹謗中傷で閉店に。加賀市の元市議が投稿サイトに匿名で、「ゴキブリ入りの料理がまずい」「店主は酔っぱらいで、トイレを出て手を洗わない」などと書き込んだことで売り上げが激減。閉店後、店主は犯人を特定し、市議は名誉毀損で30万円の罰金刑となった。

 先月も、滋賀県甲賀市のコンビニ店が女性客に偽計業務妨害と、店員への名誉毀損容疑で告訴状を提出。女性は来店時、店員と揉めており、SNS上にこの店員が新型コロナウイルスに感染しているかのようなデマを流したという。

 嫌がらせや腹いせに書き込むのは許されないが、旅行口コミサイトをのぞいてみると、〈料理がまずかった。見た目、盛り付け、すべて下品だった〉〈仲居同士が雑談してゲラゲラ笑っていた。接客がまったくダメ。宿泊してはいけない〉といった極めて“主観的”な投稿も少なくない。

 しかし、事実であっても書き込むとリスクがあるという。

 例えば、旅館や飲食店のHPにマツタケの食べ放題プランや伊勢エビの尾頭付き盛り合わせの写真が載っていたが、実際はお代わりができず、刺し身も1~2切れでとても想像していたものと違ったとする。そのことを口コミサイトに書き込むのも名誉毀損に当たるというのだ。北千住法律事務所の金湖恒一郎弁護士に解説してもらった。

「HPやチラシに載せている料理を提供しない、または、量がまったく違うという場合も含めて、事実であっても公の場で摘示することは店の社会的評価を低下させると判断される可能性があります。例えば料理に『虫が入っていて、不快な思いをした』として、それが事実であったとしても書き込めば、名誉毀損罪は成立し得ます。刑法230条には『その事実の有無にかかわらず』と規定されています」

名誉毀損なら禁錮3年以下または罰金50万円

 罪は重い。信用毀損罪・業務妨害罪(刑法233条・234条)や名誉毀損罪(刑法230条)に問われる恐れがあるという。

「前者は3年以下の懲役または50万円以下の罰金。後者は3年以下の懲役もしくは禁錮、または50万円以下の罰金です」

 とはいえ、口コミサイトを通して次に使う人が被害に遭わないために“親切心”で書き込んだ側は納得いかないだろう。

「もちろん、書き込んだ内容が『公共の利害に関する事実』であり、かつ『公益を図る目的』で行われたのであれば罰せられません。『次に利用する人が被害に遭わないように』という意図で、公益目的で書き込んだと認められればセーフとなります。そのためには、『私のような思いを他の人にしてほしくないので』『私のような被害に遭ってほしくないので』といった文言を用いれば、書き込む目的が私怨ではなく、公益を図る目的であることを示すということも考えられます。ただし、お店や店員を揶揄したり、誹謗中傷するようなことを併せて書いてしまうと『公益目的ではない』と判断されてしまう恐れがあります」

 ホリエモンはこの時点で“アウト”だ。どんなに腹が立っても、私的な感情は避けるべきだが、難しいのが個人的な「意見」や「感想」だ。金湖弁護士は、「『女将さんが無愛想で気分を害した』といった個人の意見や感想は名誉毀損には当たらない」と言う。ただし、「料理がまずい」や「店員の手際が悪い」と書き込めば法的責任を負う可能性があると指摘する。どういうことなのか――。

「意見や論評による名誉毀損が成立しないためには、①意見や論評の前提となる事実が真実であるか、または真実であると信ずるに足りる相当な理由があること②公共の利害に関する事項であること③公益目的であること、そして、④人身攻撃に及んでいないことが必要。単に『無愛想』と書くのではなく、『無愛想で頭がおかしい』などと、女将さんを侮辱するような表現を用いた場合は人身攻撃であるとされて、名誉毀損が成立する可能性があります。また、そもそもそのような表現を用いれば、公益目的でないと判断される恐れがあります」

 もっとも、個人的意見や論評に対し、損害賠償請求訴訟を起こす場合、訴える側も「その書き込みが原因で、売り上げがいくら減少した」ということを主張・立証する必要がある。

 今後は自分の感想を書いたつもりでも、訴えられるリスクもあることは覚えておいた方がいい。

■専門家はココを見ている

 旅行先を選ぶときに口コミサイトはどれくらい信用できるのか。旅行ライターの渡辺輝乃氏はこう言う。

「口コミはあまりあてにしていません。ただ、良い口コミの場合、具体的な話を出しているなら参考になることがあります。その宿の主人がどういう人物で、こういう対応をしたという口コミを見て、実際に宿泊してみたら、やはり良かったということがありました。カジュアルな宿でしたが、掃除も行き届いていて、大変気持ちの良い対応でした。逆に評価が良かったのに建物自体が老朽化していたり、タオルがボロボロだったりと問題が多かったのは、団体の外国人観光客向けにつくられた宿です。口コミが良くて安いのでいくつも利用しましたが、ギャップに不信感があります」

 飲食の口コミサイトはどうか。

「点数はお金を積んで、社員や店提携の卸業者をサクラとして動員すれば操作できます。3.5以上を維持するのは経費もかかるので、個人店はおいしくても評価は低かったりします。とくに複数のサイトと比べて、極端な評価が出ているところは注意した方がいいでしょう」(業界紙記者)

 このように、行ったこともない店の評価を自分で書き込んでいる人もいる。結局は自分の目や舌が納得いく宿や店を選ぶほかない。

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