ウッズは九死に一生も 最新性能もお手上げカーブの遠心力

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 よく助かったな。そう思わせたのが、ゴルフタイガー・ウッズ(45)が起こした自動車事故だ。車体はボンネットが大破、後部もへこむなど激しく損傷した。大惨事で脚を開放骨折する重傷を負ったものの、車の安全装置のおかげで上半身はほぼ無傷だったというから驚く。最新安全装置があっても、事故はどうして起こるのか。

 事故現場は、緩い下り坂のカーブで、ウッズの車は中央分離帯を乗り越え、反対車線の樹木に激突。6メートルの崖を横転しながら転落し、道路からかなり離れたところで止まったという。

 現地報道によれば、制限速度は45マイル(約72キロ)で、道幅が広く、下り坂とあって70~80マイル(約112~128キロ)で飛ばす車も珍しくないようだ。事故状況から推測すると、ウッズはもっとスピードを出していたとみられる。

 ウッズは2009年にも消火栓と木に激突する自動車事故を起こしたほか、17年には自宅近くの路肩で車を止めて眠っていたところを警察に職務質問され、飲酒または薬物の使用の疑いで逮捕されたこともある。今回は、飲酒も薬物も否定されているが、ウッズは決して運転マナーがいいタイプではなさそうで、車の最新性能に救われたといってもいいだろう。

 自動車ジャーナリストの横田晃氏が言う。

「ウッズが運転していたSUV『GV80』は、韓国ヒュンダイの高級車ブランド・ジェネシスの最新モデルで、トヨタのレクサスと双璧をなすグレードです。このクラスの車で、シートベルトをきちんとしていれば、単独事故なら助かる可能性が高い。それを証明した事故といえるでしょう。あの事故映像は、自動車エンジニアが思い描いた通りの乗員救命構造の結果に見えました」

 どういうことか。横田氏が続ける。

「車の前と後ろの部分を損傷させて事故によるダメージを吸収していて、人が乗るキャビンは損傷が少ない。このような車体構造は、自動車エンジニアが事故をシミュレーションして人命を守るために結実した形。さらにエアバッグをはじめいくつもの安全装置があります。たとえハンドルを取られても、対向車と正面衝突したりせず、単独事故なら、助かる可能性が高いことを証明したといえるのです。今回、ヒュンダイのジェネシスがクローズアップされていますが、日本車も欧米の車もこのクラスの安全性能は同じように高い」

■ウッズが運転していたSUVには10個のエアバッグ

 そこで、安全性能の進化と事故について横田氏に詳しく聞いた。

 まず一つは、ウッズの上半身を無傷で守ったエアバッグだろう。

「エアバッグは、運転席と助手席の前で広がるフロントエアバッグが基本です。次に普及しているのが、横の衝撃から乗員を守るサイドエアバッグやカーテンエアバッグで、シートの横やドア付近についています。さらにハンドルの下から飛び出すニーエアバッグは下肢のケガを防ぐほか、衝撃で姿勢が崩れるのを守る役割もある。座面に組み込まれるシートクッションエアバッグも同様で、シート前面が高くなることで乗員の体がへの字にならないように姿勢をキープします。さらに運転席と助手席の人との接触を防ぐセンターエアバッグも普及してきているのです」

 かくしてGV80には10個のエアバッグがあり、レクサスLSは最大12個を備えている。これだけあれば万が一、事故が起きても安心だ。

 事前に危険を回避するプログラムも充実している。今回の事故で話題を呼んだGV80の安全装置を見てみると、ざっとこんな具合だ。交差点で左右から近づく車や歩行者との接触を防ぐ「前方衝突回避支援(FCA)」、車線の中央を走るように促す「車線追従アシスト(LFA)」、さらにカメラやセンサーで障害物を検知したり衝突の衝撃を最小化したりする「先進運転支援システム(ADAS)」……。

 ハイグレード車種なら、違うメーカーでも同じような装置を備えるケースは珍しくない。それでも、装置のサポートを超えることが起きると、事故につながる。

速度が2倍なら遠心力は4倍に

 では、日進月歩の安全装置が利かなくなるのは、どんな時か。最新の交通統計2018年版によると、交通事故の法令違反は安全運転義務違反が75%とダントツ。その中身を見ると、安全不確認が最も多く、脇見運転、動静不注視と続く。

「あくまでも私見ですが、ウッズの事故も、ほとんど減速せず、猛スピードで中央分離帯を乗り越えたようですから、脇見運転が原因ではないかと思います。携帯電話やカーナビなどのながら運転の類いです。これらは罰則が強化されましたが、今もやっている人が珍しくありません。カーブでも見通しが良ければ、『少しくらい大丈夫』と気が緩みやすい。それで高速状態のままカーブに進入し、慌てて急ブレーキを踏むと、安全装置による安定走行を保てず、ハンドルを取られてしまうことがあります」

 カーブの事故は、「高速走行による事故」「カーブ深度誤判断による事故」「認知遅れによる事故」「中央部走行による事故」など7つに分類される。「高速走行による事故」は文字通りスピードの出し過ぎだが、曲がり切れずに対向車線に膨らむより、慌てて急ブレーキや急ハンドルの対応で横滑りして、コントロールを失うことが多いという。

 カーブが右か左かによって、ドライバー心理も変わってくる。左側走行で右カーブだと、遠くが左カーブより見えやすい。そんな時、ドライバーは、視線の方向にハンドルを操作する傾向があるため、右カーブの内側に寄りやすくなる。

 また、左カーブでは、目の錯覚で右隣の車線より自車線が広く見える。ドライバーは、自分の車線を広く感じると、体感速度より速度を速める傾向があることが分かっている。

「カーブを曲がる時は視線を車線の中央に向けることがセオリー。カーブの前で減速し、右カーブの時は車線の中央より少し外側に、左カーブの時は内側に寄せて曲がることです」

 ウッズはかなりのスピードでカーブに進入している。下り坂でスピードが出やすいことも災いしたかもしれない。仮に150キロとすれば、法定速度72キロの2倍超。遠心力は速度の2乗に比例するため、速度が2倍になると、遠心力は4倍に。速度が3倍なら、遠心力は9倍だ。カーブならではのコース取りや加速の事情に加え、“遠心力マジック”が重なると、やがて自動運転装置の“安全ライン”を突破してしまうのだ。

 ちなみに重さは、遠心力と比例する。1人でのドライブより、家族や仲間を乗せている時の方が遠心力は強くなる。同乗者がいる時は、1人の時よりカーブではより減速することだ。

「ある大手メーカーのエンジニアに取材した時、こう言われました。『着座位置が適正状態より5センチズレるだけで、生死を分けることがある』と。そういう感覚のズレやささいな不注意などの積み重ねで、自動安全装置でカバーしきれない事故が生まれるのです。たとえば、前方衝突回避システムを搭載していても、5メートル先の飛び出しは、時速40キロでも難しい。そのタイミングで携帯をいじったり、カーナビを見ていたりしたら、衝突は免れません」

 居眠り運転や失神などの異常を検知するシステムは一部で導入されているが、不注意をカバーする技術はまだない。今まで以上に安全運転に気をつけよう。

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