中学受験の「つるかめ算」で見える開成と麻布の教育の違い

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 中学受験の算数の定番といえば、つるかめ算と旅人算だった。

「つるとかめが合わせて10いて、足の合計本数が28本。つるは何羽いるのか」といった「つるかめ算」。あるいは「太郎君は午前7時に、毎分80mで家から学校に向かいました。10分後に、家にいたお父さんが忘れ物に気がつき、毎分120メートルで走って太郎君を追いかけました。何時何分に、お父さんは太郎君に追いつくか」といった「旅人算」ーー。

■文科省の学習指導要領にはない「つるかめ算」

 いまもそんな「特珠算」の問題を出題している学校は少なくない。しかし中学に入れば、xとyを使っての方程式を習う。そのため「つるかめ算」や「旅人算」は、無用の算数とされている節があって、文部科学省の学習指導要領にも「特珠算」指導の記載はない。

 したがって、特珠算は公立小学校では触れられず、町塾か中学受験専門塾でしか教えられていない。

 その意味でつるかめ算や旅人算といった算数は、中学受験で“選別”のためだけの特殊な算数であり、現実的に中学以降の数学につながらないし、不要だとする意見も多い。

 実際、中学受験校のすべてで特珠算が出題されるわけではない。開成や駒場東邦、神奈川県の聖光学院では、ほとんど出題されない。その一方で麻布や女子学院、京都の洛星や灘の入試では定番だ。それも、いわゆるつるかめ算と旅人算などの特珠算を組み合わせた、より高度な特珠算が出題されている。

■方程式と特殊算の特徴

 方程式と特珠算の違いは、xyといった抽象概念をいかに駆使して解答をすばやく導けるかと、一方で具体的なイメージをもとにしながらそのなかで思考の組み立てがはかられるか、だ。

 ここでいちおう、さきほどのつるかめ算を方程式にしてみると、つるの数をxとして足を考えると2xとなり、かめの数をyとして、足の数を入れて4yと表すとして、数式は「2x+4y=28 x+y=10」で、あとはその連立方程式を計算すれば、計算式が答えを自動的に導いてくれる。

 しかし、つるかめ算にしていくと、全部かめだったら足の数は40本、かめ一匹をつる一羽に変身させるごとに足の数は2ずつ減っていく。そこから等差数列を追って考える。あるいは足の数を2と4にした面積図を描いてみる。そうしたいろんな解き方があり、簡単ではない。まず問題を解く考え方のコツと工夫がいるということになる。

開成型教育と麻布型教育

 では、なぜ開成などではほぼ出題されず、麻布では好んで出題されるのか?

 この両校は、開成が完全にリードしているとはいえ、他の私立の名門校同様、ともに東大合格者を競っている学校である。だが、双方の教育理念には目に見えない違いがあるようだ。

 つまり、中学の学習に耐えられる計算力の速さ、抽象的な思考力を鍛えようとする開成型の教育には、つるかめ算などの特珠算はそれほど重要なものではない。一方で「いかに」「幾通りもの解法」を考えさせ、いわば仮定を立てさせることで具体的なイメージを促す麻布型の教育では、特珠算は必要だと考えられている。

 もちろん、開成などで仮説を立てて考えさせる入試問題が存在しないわけではない。立体や空間図形の問題では、子どもに未経験で、より抽象性の高い問題が出題されてはいるし、そうした問題は麻布などでも出題されている。しかしながら、抽象性の高い計算力を求めるか、より具体性のあるところから考えさせるのか、双方には、そのどちらを重視するのかの違いがあることはうかがえる。

■特殊算を学ばせようとする教育観

 2022年には高等学校の教科書も変わる。前回でも触れたように、2021年度の大学「共通テスト」は思考力・判断力・表現力を求めるものにシフトしてきている。

 こうした大学の受験の変化を見据えて考えてみると、はたして早い時期から高い抽象性を獲得させ、高速計算力を高めることが重要なのか。それとも多様な思考力をじっくり育てていくことを大切にしたほうがいいのか。どちらが子どもの発育歴に沿っているものであり、のちのち優れた生徒を育てることにつながっていくのか。
 それを考えると、小手先だけではなく、物事をしっかり考えるという「地頭」(じあたま)を鍛えることへの模索は、こうした中等教育の教育観を問う意味で重い。

 いまの世界および日本の状況を眺めてみると、親として、受験名門校、いい会社、高い収入といった〝鉄板の方程式〟に最短距離で子どもを導くのがいいとされてきた時代は、そろそろ終焉に近い印象だ。

 その意味で、一見、無用の算数のように思える特珠算の出題には、いろいろ体験し、冒険してもいいじゃないかという教育の可能性を示すものかもしれない。

 開成型のように多くの東大合格者を出す学校を良しとしてもいい。しかし、東大合格者は開成ほどではないが、麻布型の〝寄り道〟的な方向性を生徒に考えさせ、それなりに味があり、面白い生徒を育てるありようも十分あっていいし、いまこそ求められているのは、むしろそうした教育のあり方ではないか。

 いずれにせよ、子どもの受験を通して、これからの社会や未来に対して親の態度も迫られてきている。(つづく)

▽平賀龍之介(ひらが・りゅうのすけ) 慶應義塾大学文学部卒。公立私立高等学校教師や大手進学塾、予備校で教える。現在、教育コンサルタント・教育評論家として活動。

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