田中幾太郎
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田中幾太郎ジャーナリスト

1958年、東京都生まれ。「週刊現代」記者を経てフリー。医療問題企業経営などにつ いて月刊誌や日刊ゲンダイに執筆。著書に「慶應幼稚舎の秘密」(ベスト新書)、 「慶應三田会の人脈と実力」(宝島新書)「三菱財閥 最強の秘密」(同)など。 日刊ゲンダイDIGITALで連載「名門校のトリビア」を書籍化した「名門校の真実」が好評発売中。

都内で費用が最高額 青山学院幼稚園は上級国民向け施設?

公開日: 更新日:

 都内でもっともカネがかかる幼稚園といえば、青山学院幼稚園(渋谷区、3年保育)。東京都の調査によると、2021年度入園の初年度の納付金は160万5000円。都内幼稚園の平均は52万1016円だから、その3倍以上だ。なお、青山学院に次いで高額な幼稚園は淡島(世田谷区、3年)139万円、学習院(豊島区、2年)134万5000円、成城(世田谷区、3年)129万円、東洋英和(港区、3年)128万円と続く。

「いくら高くても、青山学院を愛する者にとって、自身の子どもを青山学院幼稚園に入れることは無上の喜び」と話すのは、幼稚園から大学までずっと青山学院で過ごした40代のOG。数年前、自身の息子も青山学院幼稚園に入園。現在は初等部(小学校)に在学している。

■大学に85%が内部進学

 幼稚園から初等部、さらには中等部への内部進学はほぼ全員。高等部へは95%以上が進み、大学にも約85%が内部進学する。幼稚園から大学まで19年間にわたって、青山学院ひとすじという生徒が圧倒的に多いのだ。もし大学院に進めば、20年以上、青山学院に在学することになる。

 しかも、その間ずっと、渋谷駅と表参道駅の間にある一等地の青山キャンパスで過ごすのである。幼稚園から大学まですべて同じキャンパス内にあるのだ。在学中にこことは別の場所に通うケースは、大学・大学院で相模原キャンパス(神奈川県)にある理工学部、社会情報学部、地球社会共生学部、コミュニティ人間科学部を選んだ時だけである。

「これだけ長く青山学院にいれば、そのカラーに染まるのは当然ですが、私の場合、幼稚園の時にすでに青学愛に目覚めていました。他の園児たちも同じだったと思います」

■初等部との連携が緊密

 40代OGはこう振り返る。その理由のひとつは、青山学院側が一貫教育の出発点として、幼稚園を位置づけている点が挙げられる。「幼稚園と初等部の連携を密にして、早くから青山学院生としての意識を高めるのです」と説明するのは、学校法人青山学院の関係者だ。

「年に2回、幼稚園の園児と初等部の1年生・2年生が『一緒に遊ぼう会』というイベントで交流を持ちます。幼稚園の年長組は初等部に遊びに行く。一方、初等部からは20人ほどの生徒が幼稚園に来て、年中組と年少組の園児たちと一日中、遊んだり、お弁当を一緒に食べる。こうした会だけでなく、ほかにもさまざまな形で連携をとっています」

 幼稚園から大学・大学院まで、すべての卒業生が名前を連ねる同窓組織「青山学院校友会」の元役員は「青山学院ブランドをもっとも体現しているのは幼稚園出身者」と話す。本人も幼稚園から青山学院生としての経歴をスタートさせた。

「やっぱり僕らが一番、青山学院を盛り上げたいと思っている人種じゃないですかね。校友会など、OB・OGが集まる場面で、もっとも力を注いでいるのも幼稚園出身者。まさに“三つ子の魂百まで”です」

 青山学院というブランドに強い誇りを持っているのがうかがわれるが、そこで気になるのは費用。都内で一番高額な幼稚園であるのは冒頭で述べた通り。初等部以降も相当なカネがかかるのを覚悟しなければならない。

■サラリーマン家庭の子供でも通えるのか

「かなり裕福な家庭でないと、幼稚園から青山学院に行くのは難しいのではないでしょうか。もっとも、うちは裕福ではありませんでしたが」と証言するのは前出のOGだ。

「経営者、医者、芸能人を親に持つ子どもが多かった。一方、私のところは普通のサラリーマン家庭。それでも、幼稚園から青山学院に入れたのは、母方の祖父が会社を経営し、けっこう資産があったからです。孫の私のために、学校でかかる費用のほとんどを出してくれていたようです」

 母親は一人っ子で、このOGも一人っ子。つまり、祖父母からすれば、たった一人の孫だった。将来、相続で揉める心配もないので、かわいい孫のためにいくらでも注ぎ込めたのだ。

「祖父母はもう他界しましたが、母によると、学校関係で出してもらった金額は19年間で4000万円を優に超えていたそうです。初等部に上がってからのほうがさらにかかったと言っていました。たしかに、初等部、中等部、高等部では国際交流やホームステイで海外に行くプログラムが数多く組まれている。すべてに参加するわけではないものの、出費がかさむんです。今から思えば、身分不相応だったような気もします」

 こう話しながらも、自身の息子も青山学院幼稚園に入れた同OG。母が遺産相続で受け取った資産がなければ、とても無理だっただろうという。

「私のところはもちろん違いますが、最近流行っている言葉でいえば、“上級国民”向けの学校だと思います」

芸能人でも通わせられるのはトップクラスの一握り

 1学年わずか40人(男子20人、女子20人)の狭き門の青山学院幼稚園。芸能人の子弟が目立つ。だが、浮き沈みの激しい芸能界で、上級国民という称号がピッタリくるのはほんの一握りにすぎない。この幼稚園に子どもを入園させる芸能人の多くは、トップクラスに位置づけられるセレブたちだ。

 たとえば、日本を代表する俳優・渡辺謙の2人の子どもはいずれも青山学院幼稚園だ。渡辺は1987年のNHK大河ドラマ「独眼竜政宗」で主役を演じ、一気にスターダムにのし上がった。同ドラマの平均視聴率39.7%は大河史上最高の数字である。

 長男・渡辺大はその翌年に幼稚園に入園。大学まで青山学院に在学し、教育人間科学部を卒業した。2学年下の長女・杏は中等部まで在学。15歳の時、ファッション誌「non-no」の専属モデルとなり、高校から堀越高に移ったが、中退。大学入学資格検定に合格している。

 芸能人の中で特に目を引くのは梨園人脈。数多くの歌舞伎役者の子弟が青山学院幼稚園に入園しているが、いずれも名門の家柄ばかりだ。その代表格は市川海老蔵(11代目)だろう。屋号は一番格上の「成田屋」。昨年5月に襲名する予定だった市川團十郎(13代目)は歌舞伎界トップの名跡だ。なお、新型コロナ禍のせいで襲名は延期されている。

 海老蔵が幼稚園に入ったのは81年。高等部まで青山学院で過ごしたが、卒業することはなかった。高1の時、舞台が忙しくなり留年。高3に上がる際、堀越高に転校し卒業した。

 13年に66歳の若さで亡くなった父・市川團十郎(12代目)も青山学院のOB。ただし、幼稚園ではなく、初等部からだ。理由ははっきりしている。その時代には、青山学院幼稚園はなかったのだ。前身の青山学院緑岡幼稚園は1937年に創立しているのだが、45年に東京大空襲で焼失。61年に再開するまで、幼稚園の運営は休止していたのである。團十郎は高等部を卒業後、青山学院大には内部進学せず、日大芸術学部に進み卒業した。

■倍率は4倍前後…合格させるコツ

 さて、いかにも敷居が高そうな青山学院幼稚園だが、合格するコツはあるのだろうか。同園の元スタッフは次のように話す。

「ポイントは小集団テストでの母親の振る舞い。最初の15分間、親子で自由に遊ぶのですが、母親があまりリードしすぎると良くありません。子どもの自発性を引き出すようにするのがコツです。とはいえ、3歳児ですから、判定する側も甲乙つけるのは難しく、結局、運に左右される部分が大きい。合格倍率は4倍前後なので、誰でも受かるチャンスはあると思います」

 受験にかかる費用は3万6000円(入園検定料3万5000円+願書1000円)。これをもったいないと思う金銭感覚では、もし合格しても、入ったあと後悔することになりそうだ。

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