田中幾太郎
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田中幾太郎ジャーナリスト

1958年、東京都生まれ。「週刊現代」記者を経てフリー。医療問題企業経営などにつ いて月刊誌や日刊ゲンダイに執筆。著書に「慶應幼稚舎の秘密」(ベスト新書)、 「慶應三田会の人脈と実力」(宝島新書)「三菱財閥 最強の秘密」(同)など。 日刊ゲンダイDIGITALで連載「名門校のトリビア」を書籍化した「名門校の真実」が好評発売中。

成城幼稚園は初年度費用129万円 それでも根強いブランド力

公開日: 更新日:

「名門」と呼ばれる幼稚園には2つのタイプがある。若葉会(東京・港区)や枝光会(港区と目黒区に4園)に代表される小学校受験に強いタイプ。もうひとつは、一貫校の付属幼稚園。私立の場合、原則として小学校、中学、高校にエスカレーター式に上がっていく。大学があれば、そこまでずっと同じ系列校で過ごすこともめずらしくない。

「コロナ禍の影響で一貫校の人気がますます高まっている」と話すのは大手学習塾の幹部。

「将来がまったく見通せなくなっている中、子どもを早いうちに安定したコースに乗せたいと思う親御さんが増えているのです。中学受験に関してはコロナ禍と関係なく、だいぶ前から加熱していますが、それが小学校、さらには幼稚園まで降りてきている。とりわけ、上級学校に大学がある幼稚園に人気が集まっているのです」

 都内幼稚園の人気ランキングで常に上位にくるのが学校法人成城学園が運営する成城幼稚園(世田谷区、3年保育)。国内有数の高級住宅街にありながら、目の前に多摩川水系の仙川が流れ、園庭は木々に囲まれ、緑豊かな自然が残っている。隣には成城学園初等学校(小学校)、仙川を挟んで成城大学のキャンパスや中学・高校の校舎がある。

■1学年の定員は男女とも20人の狭き門

「大学まであるので、受験戦争に巻き込まれなくても済むという安心感。しかも、環境が抜群で、伸び伸びと学園生活が送れる点が子どもにとって大きい」と話すのは、数年前に長女を成城幼稚園に入園させた30代のOG。自身、とても過ごしやすかった思い出があり、子どもができたら入れようと、かねてから考えていた。とはいえ、1学年男子20人・女子20人の狭き門。運がよかったと振り返る。

「せっかく親子2代、入園できたのですから、娘にはこの地で大学まで、のんびりと過ごしてくれればと思っています」と言いながらも、実はこのOGはずっと成城学園に在学していたわけではない。

「成城学園中学には内部進学で上がったのですが、自分が将来、目指したいのは理系だと気づいたんです。でも、成城大には理系の学部はない。そこで、高校受験をして、理工学部のある大学の付属校に進みました」

■理系を選択したければ他大学に行くしかない

 優良企業への就職率が高いことで知られる成城大だが、学部は経済、文芸、法、社会イノベーションの4つしかない。理系を選択する場合は、他大学に入るしかないのだ。

「理系に進む意向を持っている場合や、文系でも成城大以外の大学を志望している場合、以前だと大学受験の段階で決める生徒が多かったのですが、近年はその付属高校や中学を受験するケースが増えています」(学校法人関係者)

 つまり、幼稚園や初等学校から入学しても、必ずしも大学までずっと成城学園で過ごすとは限らないのである。「そもそも、大学まであるというのは、言い方は悪いですが、すべり止めのような感覚」と話すのは、十数年前に長男を成城幼稚園に入園させた保護者。長男は中学受験をして、有名私立大の付属校に合格した。

「弁護士志望の息子は現在、その大学の法学部に通っています。成城大にも法学部はありますが、司法試験に通るのはなかなか難しい。ではなぜ、幼稚園では成城を選んだかというと、元来おっとりとしている性格の息子には、ゆったりした校風が合っていると思ったからです」

 前述したように、幼稚園内は自然豊かな環境が保たれている。土地の傾斜をそのまま生かした園庭は起伏に富み、さまざまな植物が育ち、虫が集まってくる。

1世紀近くの歴史に培われた真のゆとり教育

「成城幼稚園では『個性尊重の教育』とともに『自然と親しむ教育』を掲げています。単に言葉だけではなく、そこには1世紀近くの歴史に培われた真の"ゆとり教育"がある。年少、年中、年長それぞれ2クラス。1クラスは男子10人・女子10人の少人数制なので、園児一人ひとりに対し、かゆいところに手が届くケアができるのです」(学校法人関係者)

 隣接する初等学校との交流もある。年中や年長になると、校舎見学や授業体験をする。幼稚園と初等学校の合同運動会では、園児と小学生が一緒に玉入れ。年上との交流は、園児たちの人間形成にも役立っているという。「そうした経験をした者にとって、自分の子どもをぜひ、この幼稚園に入れたいと思うのは自然のなりゆき」と前出のOGは強調する。

■卒園生に森山直太朗小澤征悦

 ただし、問題はその費用。入園初年度は入園料、保育料、施設費などを合わせて計129万円(21年度)を払い込まなければならない。これは都内幼稚園で青山学院、淡島、学習院に次いで4番目の高さだ。資金的な余裕がない家庭ではかなり厳しい。そこで目立つのが芸能人家庭の子弟だ。

「芸能人の場合でも、親が成城学園出身だと、子どもを成城幼稚園に入れたがる傾向が強いように見受けられる」と話すのは、かつて同園のスタッフだった女性だ。

 昨年は連続テレビ小説「エール」に出演し、俳優としても活躍する歌手の森山直太朗(45)は1980年に成城幼稚園に入園。19年間にわたって成城学園に在学し、99年に経済学部を卒業している。母の歌手・森山良子(73)は成城学園高校の出身だ。

 森山直太朗の1学年上の俳優・小澤征悦(46)も幼稚園から大学(文芸学部)までずっと成城学園。父で世界的指揮者の小澤征爾(85)も中学の時、成城学園に在学していた。成城学園が4年前に創立100年を迎えた際、「僕の人生の中で一番楽しかったのは、成城の中学校の3年間」とコメントを寄せている。高校1年まで成城学園に籍を置いていたが、2年に上がる際、創設されたばかりの桐朋女子高校音楽科に転校した。なお、同科は普通科とは違って男女共学である。

 森山直太朗にしても小澤征悦にしても邪気がなく、見るからに素直な人柄が伝わってくる。幼稚園からの成城学園での人間形成が反映されているのだろう。

 11月上旬には成城幼稚園の入試がある。1時間の集団テストと、約5分間の親子同伴面接で判定する。

「読み書きのテストはありません。重要なのは子どもが集団生活に適応できるかどうかですが、なにぶん、3歳児のやること。まわりの受験者に左右される部分も大きく、その巡り合わせによって不利になることも。"運"次第のところもあります」(元スタッフ)

 母体・成城学園に続き、2025年には幼稚園も創立100年を迎える。最近の「お受験」戦線では名前が取り沙汰されることが少ない成城幼稚園だが、「お母さまがたの間では人気が根強い」(学習塾幹部)という。いまだ、成城のブランド力は健在のようだ。

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