医療費重く受診ためらい手遅れ死…無料低額診療で乗り切る

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 院内感染が怖いから、病院はちょっと……。新型コロナウイルスの感染拡大で受診を控える人が相次いでいる。多くの人は感染が落ち着いたり、ワクチンを接種したりすれば受診を再開するだろう。しかし、見過ごせない深刻なケースが報告されている。

 ◇  ◇  ◇

「昨年は、受診をためらい、治療が手遅れとなって死亡されたケースが40件ありました」

 こう語るのは、全日本民主医療機関連合会(民医連)常駐理事の久保田直生氏だ。民医連は、歯科を含む医療や調剤薬局、介護などの1769事業所が加盟する団体で、「経済的事由による手遅れ死亡事例調査」を毎年、行っている。同事業所のうち医療と調剤薬局の706事業所を対象にした昨年の結果が、40件だ。

■1万件が手遅れ死の可能性

 厚労省の「人口動態統計」(速報)によると、昨年の死亡数は138万4544人。コロナ感染による死亡数は累計1万4000人近い。これらの数字と比べると、手遅れ死亡数の40件は少ないように見えるかもしれないが、そんなことはないという。

「昨年は、コロナ感染の拡大によって、そもそも受診を控える動きが広がりました。調査結果は氷山の一角です」(久保田氏)

 厚労省の最新の「医療施設調査」(2019年)によれば、全国の「病院」と「一般診療所」「歯科診療所」を合わせた医療施設数は17万9416。民医連の調査対象はそのうち0.4%で、久保田氏が「氷山の一角」と言うのも当然。仮に民医連調査を全国に拡大すれば、1万件に上る。コロナの累計死亡者数に迫る数字だ。他人事ではないだろう。久保田氏が続ける。

「コロナの影響があったケースは8件(20%)。非正規や無職の方が多いものの、正規雇用の方でもコロナ禍で収入が途絶えて手遅れ死亡に至ったケースもありました。正社員の方も油断できないでしょう」

 では、具体的にどんなケースがあるのか。対策はどうするか。久保田氏に聞いた。

 50代の男性は日本語学校の正社員で、外国人に日本語を教えていた。コロナ感染が広がり始めた昨年3月から仕事がなくなり、6月には無収入に。もともと糖尿病で通院していたが、主治医が提案した治療法に抵抗があったのに加え、無収入が重なり治療を中断。その後、度重なる嘔吐で民医連の医療機関を受診した経緯から、容体が悪化したとき再び救急搬送されたという。

「血糖状態を示すHbA1c(正常値は5.6%未満)が過去2カ月ほど11%台と糖尿病の状態がひどく、入院を強く勧めたのですが、本人は拒否。その後、警察から不審死の照会があり、ご両親が男性の自宅に向かい、死後10日ほど経過した状態で発見。ご遺体は一部、腐敗が進んでいたそうです」(久保田氏)

 男性が入院を拒否したのは、医療費の負担がネックだったとみられる。「実家の両親に受診していることを伝えてほしい。おカネが払えないことも伝えてください」と懇願し、民医連のスタッフが実家に連絡。救急搬送時の費用は、薬局代は全額、救急外来分は2000円のみ払い、残りの外来費用は分割払いにしたという。

死因はがんが6割 重度の床ずれや足壊疽も

 男性は重度の糖尿病で心筋梗塞や脳卒中などを起こしたのだろう。手遅れ受診で亡くなる人の死因はどうか。

「40件中、がんが63%の25件。受診時点ですでにステージ4と転移があって全身状態が悪いケースが多く、手術や抗がん剤など前向きな治療ができず、痛みを取る緩和ケアをはじめ対症療法しかできないケースが目立ちます。がん以外では、肺炎や心臓病など。床ずれが多発していて、かつ重症だったり、両足が壊疽を起こしていたりするなど食生活や生活環境が劣悪なケースも珍しくありません」(久保田氏)

 60代男性は、派遣社員でホテルの客室清掃を担当。コロナ禍の感染拡大で宿泊客が減って出勤停止となり、昨年4月ごろから無収入に。その1カ月くらい前から腰から右足にかけての痛みがあったが、一人暮らしで経済的な厳しさからガマン。ガマンも限界となり、職場の同僚に付き添われて民医連の医療機関を受診すると肺がんが見つかった。すでにリンパ節や骨にも転移していて転院先の病院で治療を受けたものの、8月に息を引き取ったという。

 がんの5年生存率は6割を超え、胃がんや大腸がん、乳がんなど早期なら治るケースも珍しくない。それでも転移や再発のフォローで、少なくとも5年は検査が続く。そこにコロナによる経済的なピンチが重なれば、医療費負担が家計に重くのしかかるだろう。

 生活習慣病の医療費負担も軽くない。神戸市看護大地域連携教育・研究センター准教授の相原洋子氏らの研究によると、生活習慣病の年間自己負担額の平均は4万円。最も高い60代は7万円近い。1カ月当たり6000円ほどだ。今回の調査で44%が手取り10万円未満の月収では、この医療費負担はネックかもしれない。

実施は703施設、利用は社福に相談を

 それで、受診をためらった結果が、手遅れ死亡だ。現状の厳しさを考えると、久保田氏が指摘する「氷山の一角」という見方は決してウソではないし、だれがいつそんな苦境に立たされても不思議はない。そんなピンチを免れる手だてはあるのか。

「無料低額診療事業(無低)を利用するのが効果的です。無低は、低所得者ら基準を満たした人に医療機関が無料または低額な医療費で診療を行うもので、低所得者のほか生活保護者、DV被害者、人身取引被害者、ホームレスらが対象になります」(久保田氏)

 すべての医療機関で無低を利用できるわけではない。全国で703施設と少ないが、自治体や民医連のホームページでチェックできる。利用したい人は、社会福祉協議会や福祉事務所などに相談。基準をクリアすると、無料か低額の診療券が交付される。その診療券を持って実施医療機関にかかると、医療費が全額免除か減免される。老健施設にも同様の事業があり、実施施設数は641施設。18年の利用者は、合計約987万人で、前年より約8万3000人ほど増えている。

 基準は、実施医療機関によって異なるが、世帯収入が生活保護基準額の140%以下とするケースが多いようだ。それより収入が少なくなるにつれて、減免額が増える。ただし制度は、生活が改善するまでの時限措置で、最大、スタートから6カ月だ。

 英医学誌「ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル」には昨年、がん治療が4週間遅れると死亡リスクがどうなるかを検証した論文が掲載された。手術の4週間遅れで死亡リスクは6~8%アップ。膀胱がんの術前化学療法については24%の上昇だ。こんな研究結果があるだけに、生活が厳しい人は無低を利用しない手はない。

 無低に当てはまるほどの苦しさでなくても高額療養費制度を使えば、医療費は世帯で合算でき、1カ月の自己負担限度額を超えた分は還付される。別表の低所得者は、月3万5401円以上なら還付対象だ。がんの手術などであらかじめ限度額が超えることが分かっているケースは、医療機関に限度額適用認定証を提出しておけば、治療後の支払いは自己負担額から還付額を差し引いた金額で済む。通知書については国保なら自治体、社保なら健保組合に相談するといい。

「無低をはじめ医療費の軽減制度はあまり認知されておらず、利用されないケースが多い。医療費が苦しいときは病院のソーシャルワーカーに相談して軽減措置を教えてもらうことが大切です」(久保田氏)

 あきらめてはダメだ。

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