戸越銀座「キッチン TAIYO」で50年ぶりのブラウンソースの香りに感激
昭和40年代終わり頃の話。半ドンの土曜日、学校から腹ペコで帰宅すると、アタシの親父が「みんな帰って来たから五反田行こう」と家族6人で昼飯を食べに行くことがあった。
五反田には老舗の洋食屋が何軒かあり、親父はその中の一軒、レストラン太陽のファンだった。山手線沿いのビルの隙間にその店はあり、店の近くに行くと牛脂を溶かしたヘットとデミグラスソースの香ばしい匂いがした。アタシはその匂いが大好きだった。
その後、突然店をたたんでしまい寂しい思いをしたが、しばらくして再開、何度か移転ののち現在の戸越で店を構えた。
近くにはテレビロケなどの影響なのか多くの人で賑わう戸越銀座商店街がある。ここは日本で最初に銀座を名乗った、日本一長いなどと、うんちくネタには困らない商店街。池上線の戸越銀座駅周辺は残念ながら大手企業の店舗ばかりが並び無個性な商店街の感は否めないが、第二京浜の先はいまだに個人商店が頑張っていて昭和の面影も多少は残っている。今日伺う「キッチン TAIYO」はその商店街の端にあり、戸越で5年目を迎える。
さて、50年ぶりにビルの隙間のあの匂いを堪能することにしよう。何を食おうか……冬ならカキフライだが、腹ペコなので牛肉どっさりのビーフハヤシの大盛り、タルタルたっぷりのエビフライやハンバーグ、サケのバター焼きっていう手もある。カツカレーもいい……。ええい! 分厚い豚ロースに野菜たっぷりのブラウンソースのかかった最強ポークソテー(1500円)と生ビール(500円)で決まりだ!
そんなことを考え、ドアを開ける。左側の厨房の前には8人ほどが座れるカウンターと右側には4人掛けテーブルが5脚。ランチタイムが一段落した1時半。アタシはカウンター端に陣取る。厨房には創業者で80歳になる岩谷親方とその片腕のコックさんが2人でいくつものフライパンを振っている。休日の昼下がりにもかかわらず、ボリューム満点のランチを求めて老若男女が引きも切らず押しかけてくる。