経済学者・郭洋春氏が説く「100均資本主義」今こそ“成長”を追い求めず心豊かな生き方を

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郭洋春(立教大学経済学部教授)

 1年以上経っても何だかよくわからない岸田首相の「新しい資本主義」。今回登場の経済学者が説く「100均資本主義」は、これに対するアンチテーゼのような考え方だ。資本主義としては異端・異形ながら、成長至上主義から解き放たれる日本独自の経済モデルだという。いったいどういうものなのか。

 ◇  ◇  ◇

 ──岸田首相の唱える「新しい資本主義」について、どうご覧ですか。

 そもそも資本主義には新しいも古いもないんです。ひとつの経済システムなので、それを新しいとか、古いとか言おうとすれば、理論的にしっかりと新しい概念を説明しなければいけない。「新しい」という言葉によって、「何か新しい社会が生まれるんじゃないか」と多くの国民が思うように持っていこうとするのは非常にナンセンスで、経済学者としては不愉快です。経済学を知らないんだろうなとも思います。

 ──では、郭先生の言う「100均資本主義」というのは?

 今の日本の資本主義は、例えばマルクス経済学で言うところの拡大再生産と、それによって資本が増殖していくという構造から逸脱するような異形の資本主義になってきています。拡大しなくても資本主義が生き永らえていくような、まさに新しい経済構造に入った。その典型的なものが、100円ショップを中心とする激安ショップの存在です。100均が非常にわかりやすいので、それを私は「100均資本主義」と呼んでいます。日本独自の経済現象が進行していると見ています。

 ──拡大しない資本主義ですか。

「進歩」とか「成長」と言うと誰も否定できなくなる。常に世の中を良くするもの、プラスにしていくものだという成長至上主義的な発想があるから、絶対に否定できないものというイメージなんですね。しかし、日本はこの30年間そもそも成長していない。でも生きているし、やっていけているじゃないか、と。目線を変え、拡大再生産ではなく縮小再生産でも暮らしていけるような状態を、成長という概念ではなく、別の表現や考え方に置き換えたら、もっと楽に生きられるんじゃないかと思うんです。

■「衰退」ではなく「均衡社会」

 ──でも、世間一般には「成長しなければ衰退への道」などと言いますよね。

 成長の反対が「衰退」や「没落」と思うこと自体が成長神話なんです。「定常社会」とか「均衡社会」と呼び変えたらいい。経済学でデフレと言うと、イコール経済恐慌につながっていくイメージですが、30年以上もデフレが続くというのは、経済理論上「コンドラチェフ循環」(50年周期の景気循環)というのはありますが、日本の場合はそれとも違う。つまり、日本の景気は循環していない。ずっと停滞状態なんです。でもそれを停滞ではなく、当たり前の社会と読み替えると、すっと楽になるし、日本はデフレじゃない、と言えば、衰退ではなくなる。

 ──それが、異形の資本主義、日本独自の経済なのですか?

 30年間ずっと停滞し、賃金も上がらないのに国家が成り立つというのは、経済理論上はあり得ないんです。あり得るとしても、それはやはり危機にならざるを得ない。国家転覆というか政権交代が起きないとおかしいんだけど、日本では民主党政権が3年間ありましたが、あれは経済政策が問題だったのではなく、年金問題で自民党が失点したからだった。経済が苦しい、生活が苦しいといっても、選挙をすれば自民党が勝つおかしさ。賃金が上がらないけれども、ストライキひとつ打たれないおかしさ。他の国なら、それこそ暴動が起きる。経済が停滞し、生活に不満があっても爆発しない社会は他にはちょっと見当たりません。そうすると、停滞した経済社会でも生きられるような仕組みが今の日本にあるとしか考えられないんですよ。それが、100円ショップや回転寿司、ドン・キホーテやニトリのような低所得の人たちでも買えるような商品を提供する業態が、どんどん生まれてきているという、他の国にはない仕組みなんです。

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