中大野球部総監督・宮井勝成氏が死去 OB高橋善正氏が悼む

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 試合でも、「お前らが持っている力を存分に出せ」と言うだけで、口うるさく指示を出したり、細かなサインを出すタイプではなかった。俺に従えというところがなく、選手を大人扱いしてくれる、そういう意味でも異質な監督だった。

 そんなオヤジにただ1度だけ、殴られたことがある。あれは、3年生の終わり頃だったか。練習後の特打で下級生に打たせるというので、外野で球拾いの手伝いをやっていたときだ。途中でバカらしくなり、同級生と交代で当時東京・練馬にあったグラウンドの隣にあった土手の下に行き、タバコを吸っていた。こっちは隠れてプカプカやっているつもりだったが、ひと筋、ふた筋と煙が上がる。それで見つかり、平手で左頬をバチンと叩かれた。もちろん、コソコソ隠れて悪さをした自分が悪い。大学4年間で怒られたのはこれだけだし、上級生になって二十歳を超えた部員はしょっちゅう、新宿に飲みに連れて行ってくれるような監督だったから、部員はみな、親愛の情を込めて「オヤジ」「オヤジさん」と呼び、慕った。

■スカウトを門前払いした「オヤジ」

 多くのプロ野球選手を育て、プロの球団に顔が利いたオヤジを、すげえな、と思ったのが、私のドラフトのとき。ドラフト制度が発足して2年目の66年、2次ドラフトで東映から「外れの外れの1位」で指名された。当日、ゴルフに行っていた私が寮に戻ると、オヤジの第一声は「おい、最悪の球団に当たっちゃったよ。よりによって、一番ケチな球団だ。社会人にでも行くか?」。後日、東映の若いスカウトが交渉に来ると、オヤジは話にならんとばかりに門前払い。慌てて別のスカウトがやって来たものの、契約金が当時の上限だった1000万円に届かないと聞くや、「ダメ!」とまた追い返す。その後も何度も交渉を重ねてくれ、200万円の上積みを引き出し、上限で契約できた。中大で1年生からエースとして使ってくれ、東都リーグ通算35勝(15敗、防御率1・61)を挙げてプロへの道を開いてくれたのも、やはりオヤジのおかげだ。

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