著者のコラム一覧
井上理津子ノンフィクションライター

1955年、奈良県生まれ。「さいごの色街 飛田」「葬送の仕事師たち」といった性や死がテーマのノンフィクションのほか、日刊ゲンダイ連載から「すごい古書店 変な図書館」も。近著に「絶滅危惧個人商店」「師弟百景」。

ページ薬局(大阪・蛍池)「偶然出会った本の影響を受けてきた」と気づき薬局に本屋を併設

公開日: 更新日:

話題書や本屋大賞受賞作など新刊本1000冊が壁面にびっしり

 すぐ近くに耳鼻咽喉科や婦人科などのクリニックがあり、診察を終えた人たちがやって来る。そう、ここは調剤薬局である。だが、壁面に本がびっしり。前代未聞ではないだろうか。本屋さんを併設した調剤薬局というのは──。

「“普通の新刊書店”ですから、もちろんどなたも大歓迎です」

 と、白衣姿の薬剤師、瀬迫貴士さん(36)。ここ「ページ薬局」を含め3つの調剤薬局を経営する「フレンド」(本社・広島市)の常務だ。

 病気の本が多い? と思いきや、面陳列に「今、ラジオ全盛期。」「職場の問題解決入門」など話題書や、岩井圭也著「汽水域」、夏木志朋著「Nの逸脱」といった小説が目立つ。「本屋大賞」受賞作もずらり。

「私とスタッフたちの好きな本を置いています。全1000冊中、病気関係は10冊くらい」って、驚きに拍車がかかるなー。なぜ、こうした本屋を?

「自分の“棚卸し”をしたからです」と、瀬迫さん。

薬も本も売値が決まっていて、価格競争できない似た業界だからこそ「選ばれる努力」を惜しまない

 新卒で製薬会社の営業職になり、宮崎へ赴任。そのころから、「週に1回、本屋へ」を自分に課したのは、「(本屋に行けば)時流が分かる」との思いもあったからだ。家業の調剤薬局に転じ、新規出店計画が持ち上がったタイミングで、自分を“棚卸し”。「本屋で偶然出会った本の影響を受けてきた」と気づき、薬局への併設を思いついた。

 SNSにそう書くと、大手の書店員や独立系書店主ら協力者が次々と現れた。東京開催の本屋開業講座にも通い、2020年6月に、いわく「手探りで」オープン。好評を得ていることは、本棚の前で薬の処方を待つ人や、ふらりと入ってきて本棚に直行する人の多さから一目瞭然だ。

「薬も本も売値が決まっていて、価格競争できない。似た業界です」。だからこそ温かい声をかけるなど「選ばれる努力」を惜しまない。

 目下開催中の「5周年記念企画」が面白い。題して「小説家15人の処方箋」。町田そのこ、宮島未奈、増山実ら錚々たる作家が、処方箋に似せたブックカバーに手書きで推薦文を寄せる。中身が見えない、作家おすすめの本を販売しているのだ。皆さん、どうぞ~。

◆大阪府豊中市蛍池東町2-3-6 シャンティー今谷101/℡06.4865.3778/阪急宝塚線・大阪モノレール蛍池駅から徒歩3分/9時半~18時半(水曜17時半まで、土曜12時半まで)、日祝休み

ウチの推し本

「プラスティック」井上夢人著

「2004年刊のミステリー。ウチの薬剤師・尼子慎太が2024年の『本屋大賞』の『超発掘本!』に推して選ばれ、彼の推薦コメントが帯に書かれているんです。そのコメントは、『フロッピーディスクやワープロなど、令和の時代ではピンとこない人達もいるであろう単語が並ぶ作品ですが、謎が謎を呼ぶその展開は、今読んでもガツンと脳みそに突き刺さる衝撃がありました』と。読みたくなるでしょう?」

(講談社文庫 880円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人エース戸郷翔征の不振を招いた“真犯人”の実名…評論家のOB元投手コーチがバッサリ

  2. 2

    「備蓄米ブーム」が完全終了…“進次郎効果”も消滅で、店頭では大量の在庫のお寒い現状

  3. 3

    阿部巨人が今オフFA補強で狙うは…“複数年蹴った”中日・柳裕也と、あのオンカジ選手

  4. 4

    さや氏の過去と素顔が次々と…音楽家の夫、同志の女優、参政党シンボルの“裏の顔”

  5. 5

    ドジャース大谷翔平「絶対的な発言力」でMLB球宴どころかオリンピックまで変える勢い

  1. 6

    参政党のあきれるデタラメのゴマカシ連発…本名公表のさや氏も改憲草案ではアウトだった

  2. 7

    参政党「参院選14議席」の衝撃…無関心、自民、れいわから流れた“740万票”のカラクリ

  3. 8

    オレが立浪和義にコンプレックスを抱いた深層…現役時代は一度も食事したことがなかった

  4. 9

    参政党・神谷宗幣代表「日本人ファースト」どこへ? “小麦忌避”のはずが政治資金でイタリア料理三昧

  5. 10

    ドジャースに激震!大谷翔平の“尻拭い役”まさかの離脱…救援陣の大穴はどれだけ打っても埋まらず