元川悦子
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元川悦子サッカージャーナリスト

1967年7月14日生まれ。長野県松本市出身。業界紙、夕刊紙を経て94年にフリーランス。著作に「U―22」「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年 (SJ sports)」「「いじらない」育て方~親とコーチが語る遠藤保仁」「僕らがサッカーボーイズだった頃2 プロサッカー選手のジュニア時代」など。

【東京国際フォーラム】2年前には「最高の五輪になる」とバッハ会長が言い切った場所が今は…

公開日: 更新日:

東京国際フォーラム周辺

 体操の内村航平(ジョイカル)、水泳瀬戸大也(TEAM DAIYA)ら東京五輪金メダルが期待された有望選手が次々と予選敗退するというサプライズが続いた7月24日。

 自身5度目となる今大会を「キャリアの集大成」と位置付けた女子重量挙げ49キロ級の三宅宏実(いちご)も記録なしに終わり、競技終了後には現役引退を表明した。

 彼女が最後の戦いに挑んだのは、千代田区丸の内の東京国際フォーラム。JR東京駅に直結する東京のど真ん中だ。

 しかし、他の競技会場同様、全体が金網で覆われ、厳重な警備体制が敷かれていた。

 所属先のいちご本社にも近いのだが、同僚や仲間たちに間近で雄姿を見せることは叶わなかった。それだけは本人も心残りだったのではないだろうか。

 三宅が入っていたA組の競技開始は午後1時50分。その頃を見計らって東京駅から有楽町駅あたりを回ってみた。

 丸の内南口改札から外に出たが、最初に目についたのは、コロナワクチン大規模接種センター行きシャトルバスの案内板を掲げたスタッフの姿。本来なら重量挙げ会場への道案内をするボランティアが立っていたはずだったと思うと辛くなる。

目に入るのは金網と白いフェンス

 はとバス乗り場をやり過ごし、少し歩くと東京国際フォーラムに辿り着く。だが、案の定、警察官が厳重にガードしていて、物々しい雰囲気だけが色濃く感じられた。

「今日って三宅さんが出る日よね」と関係車両出入口付近でささやく中年女性2人組がいたが、当然、中には入れない。「一生に一回の地元での五輪を生で見てみたかった」と残念そうにしていたが、それは大半の国民が抱く感情ではないか。

 そこから施設をグルリと一周したが、本当に金網と白いフェンスしか目に入ってこない。

 思い起こせば2019年7月23日の「東京五輪1年前イベント」も、ここが会場。安倍晋三首相(当時)や小池百合子東京都知事、IOCのバッハ会長らが「最高の五輪になる」と満面の笑みを浮かべていた。

 まさか2年後にこんな状況になるとは、彼らも想像だにしなかっただろう。

 現風景をスマホで撮影している人はチラホラいたが、大半は五輪に関心がないのか、スタスタと通り過ぎていく。

 緊急事態宣言下ということで、土曜日にも関わらず丸の内、銀座界隈の人出は少ない。有楽町の東京交通会館前のマルシェで働くスタッフも「重量挙げがすぐ近くで行われている感覚は全くないですね」と苦笑する。周囲の人々にとって五輪会場は「異物」なのかもしれない。

選手をサポートする企業にも無観客は残念

 三宅の所属先の本社が入るビル前にも、応援の横断幕などは一切、掲げられていなかった。

「2008年の宏実選手の入社がウェイトリフティング部創設のきっかけになりました。彼女は人柄も素晴らしく、仕事意欲も高い。存在自体が会社の大きな活力になっています。今は同部にも5人になり、みんな社員として頑張ってくれています」と同社広報担当も語っていた。

 まさにシンボル的なアスリートだけに、本来なら社を挙げて大々的に声援を送りたかったはず。選手をサポートする企業にとっても、無観客は残念でしかないのだ。

 そんな中でも、五輪開幕によって多少の経済効果を享受できているところはある。その筆頭が公式ショップだ。有楽町エリアは、東京スポーツスクエア内の「有楽町店」と東急プラザ銀座内の「銀座店」の2カ所があり、どちらも開会式前日から人でごった返しているという。

「数日前までは客足が鈍かったんですが、22日から急にお客さんが増えて開会式当日は飛ぶようにグッズが売れました。売れ筋はマグカップ、タオル、Tシャツといった手ごろな値段のものが中心です」と銀座店の女性スタッフが言えば、有楽町店の方も「7月初旬までは週末でも閑散としていて、本当にどうなるんだろうと思っていましたけど、ここ数日は相当混んでいます」と店員が嬉しそうに接客していた。

 確かに五輪期間に祭典ムードを感じられる場所はここくらいしかない。当面の間、公式ショップの盛況は続きそうだ。

 五輪会場周辺には悲喜こもごもがある。それを再認識する1日となった。

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