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春日良一五輪アナリスト

長野県出身。上智大学哲学科卒。1978年に日本体育協会に入る。89年に新生JOCに移り、IOC渉外担当に。90年長野五輪招致委員会に出向、招致活動に関わる。95年にJOCを退職。スポーツコンサルティング会社を設立し、代表に。98年から五輪批評「スポーツ思考」(メルマガ)を主筆。https://genkina-atelier.com/sp/

【緊急寄稿】IOC会長がトランプ米大統領のイラン攻撃に沈黙を貫く理由 透けて見える28年ロス五輪開催国への忖度

公開日: 更新日:

 5月初旬に開催された国際オリンピック委員会(IOC)理事会の報告は、オリンピズムを信じてきた者にとって落胆を禁じ得ないものであった。
 
 コベントリー会長の記者会見では、オリンピックQシリーズ(五輪予選イベント)の開催地決定や、2022年のオリンピック休戦違反を理由に制裁を受けていたベラルーシの資格回復が発表された。しかし、直近のミラノ・コルティナ冬季五輪における「オリンピック休戦」について語られることはなかった。

 オリンピック開会7日前からパラリンピック閉会7日後までの期間は、国連総会決議に基づく「オリンピック休戦」の対象期間である。ところが、ミラノ・コルティナ冬季五輪閉会の6日後、米国とイスラエルによるイランへの軍事行動が行われた。

 2022年の北京冬季五輪時には、ロシアとベラルーシによる「休戦」違反に対し、IOCは史上初めて国家権力に対する制裁を科した。私は今回も、IOCが少なくとも「休戦」の理念的重要性について何らかの声明を出すのではないかと注視していた。しかし実際には、「休戦」期間中に選手が安全に渡航できることへの期待を表明するにとどまり、米国やイスラエルへの直接的言及はなかった。

 私は「休戦」の理念を改めて訴えるべきではないかと考え、独自のルートでIOC会長宛に書簡を送った。また4月にはフランスの国際スポーツ専門メディア「Francs Jeux」に小論を投稿し、「休戦」には沈黙しながら、「トランスジェンダー女子の女子種目参加」問題には明確な結論を示したIOCの非対称性について疑問を呈した。

 なぜ、IOCは「休戦」について沈黙するのだろうか。

 IOCが長年最重要視してきたのは、スポーツの自律である。政治的干渉を受けず、スポーツを独自の価値体系によって運営するという考え方だ。そして、その自律性こそが、スポーツを通じて世界平和を実現しようとするオリンピズムの基盤でもあった。1980年のモスクワ五輪では、ソ連のアフガニスタン侵攻への抗議として米国が西側諸国にボイコットを呼びかけ、続く1984年のロサンゼルス五輪では東側諸国が報復的ボイコットを行った。しかしIOCは、政治的対立に深入りすることなく、競技大会の開催維持そのものに専念した。それが当時のIOCの「政治との距離感」であった。

 冷戦終結後、世界は一時、対立なき時代へ向かうかに見えた。しかし現実には民族紛争や地域対立が頻発し、さらに近年では権威主義体制と民主主義体制の対立も先鋭化している。

 そうした時代に登場したのが、2013年に就任したバッハ会長である。バッハは、どの政治体制の国家ともスポーツを通じて関係を維持できる空間を守ろうとした。その象徴が、2018年のオリンピック憲章改正で「政治的中立」という概念を明示したことであった。

 しかし一方で、2022年北京冬季五輪時の「休戦」違反に対しては、ロシアとベラルーシに対する制裁という前例のない措置を取った。これは、スポーツが初めて国家権力に対して意思を示した瞬間でもあった。ロシアはその後、オリンピックに代わる国際競技秩序の構築を試みたが、それはオリンピック運動に匹敵する求心力を持つには至らなかった。

 私は、2025年にバッハからバトンを受け継いだコベントリー会長も、この路線を継承するものと思っていた。しかし、彼女が示した方向性はやや異なるように見える。

「スポーツは政治には何もできない。しかし、スポーツには人々を結びつける力がある」

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