ビーチW杯準々決勝で日本がタヒチ下し2大会連続ベスト4!狙うは初のファイナリスト

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 準々決勝タヒチ戦の劇的な勝利が、グループリーグ3戦目・ロシア戦の歴史的な大敗がもたらしたものだとすればーー。

 ビーチサッカーW杯常連国の日本にとって、屈辱的とも言える「1-7」というスコアは、永遠に記憶に留めておくべきではないだろうか。

 グループリーグB組を2勝1敗・2位通過となったビーチサッカー日本代表は、グループリーグA組を1位で突破したタヒチと準々決勝で顔を合わせた(日本時間27日午前1時キックオフ)。

 2015年、2017年W杯で準優勝に輝いている強豪タヒチは、今大会グループリーグ全3試合で「計23得点」と爆発的な攻撃力で旋風を巻き起こした。

 前回2019年パラグアイ大会でMVPを獲得した茂怜羅オズ監督兼選手が率いるビーチ日本代表は、対称的にグループリーグ全3試合で先制点を奪われる展開だった。

 しかも大敗したロシア戦では、第1ピリオド開始9秒で大黒柱オズのオウンゴールで失点という衝撃的な幕開けだった。

 決勝トーナメントの初戦は真逆の展開となった。

 開始4分、GK河合雄介が、利き手の左手で相手ゴール左に精度の高いボールを投げ入れた。

 元Jリーガーでビーチサッカー歴が2年にも満たないFP上里琢文が、ジャンプしながら左足インサイドでゴール前に折り返した。これが相手選手の体に当たってゴール右下隅にコロコロ……。

 日本代表は今大会、初の先制点を<オウンゴール返し>で決めた。

 その1分後だった。W杯出場9回目のFP山内悠誠が、相手のファウルを受けてPKを獲得。今大会はPKを失敗ー成功ー失敗と<黒星先行>の山内だったが、落ち着いた表情で右足インサイドでゴール右に叩き込んだ。

 2-0で第2ピリオドを迎えた日本代表。

 それまで好パフォーマンスを見せていたGK河合が20分、不用意なミスを犯して<悪い流れ>を呼び込んでしまった。

 7月に改正された「GKは自陣ハーフ内で4秒以上ボールを保持できない」ルールに引っ掛かりそうになり、慌てて放り投げたボールが相手選手に渡り、シュートを打たれてしまったのだ。

 ボールはクロスバーを直撃して跳ね返り、何とかコトなきを得たが、ピッチ上にイヤな感じの停滞ムードが漂ったと思ったら、30秒後にFP山内の手にボールが当たり、痛恨のPK献上となった。

 ここでベンチの田畑輝樹コーチは、セーブ力のある第3GK城田優にゴールマウスを託した。

 結果的にPKを決められてしまったが、GK河合は一度ベンチに下がることでメンタル面を切り替えられ、合わせて<相手に傾こうとした試合の流れ>を最小限に食い止めようという意図もあったとすれば、一定の効果は間違いなくあった。

■残り23秒でタヒチに逆転弾を食らう

 実際、その後の日本代表はオズの献身的な守備があったり、相手GKのシュートをGK河合が好セーブしたり、FP赤熊が強烈なオーバーヘッドシュートやヘディングシュートを見舞ったり、日本代表は2-1とリードしたままで第3ピリオドを迎えた。

 とはいえ、30分に相手選手の素晴らしい個人技にしてやられてしまった。

 右サイドからドリブルでカットインされ、フリーの状態でゴール左サイドネットに鋭い同点ゴールを決められたのだ。

 試合残り6分の段階で同点に持ち込んだタヒチは勢いづき、残り23秒で<最初のドラマ>が待ち構えていた。主役を演じたのはFP上里である。

 タヒチ選手が右サイドからの低い弾道のシュート。日本ゴール前のFP上里は、両ひざを曲げるようにして当ててクリアしようとした。

 しかし、当たりどころが悪くてボールは日本ゴールに吸い込まれ、土壇場で逆転弾を食らってしまったのである。

 茫然自失状態でベンチに下がったFP上里。しかし、ピッチ上の選手たちもベンチのスタッフも選手たちも、まだ<死んではいなかった>。

■大場の強烈ボレーがゴール左上に!

 FP奥山正憲がキックオフのボールをチョンと浮かし、それをFPオズが右サイドに張っていたFP大場崇晃に絶妙の浮き球パスを送った。

 試合の後に「オズと視線が合ったので間違いなくボールを出してくれるな、って思いました」と振り返った大場に<正真正銘のドラマの主役>が回ってきた。

 ボールの落ち際を狙い、右足インフロントで抑えの利いた強烈ボレーシュート。ボールはシュートコースを消そうとした相手選手の股間を通過してバウンドし、相手GKの差し出した右手とゴール左で構えていた相手選手の頭をかすめるようにしてゴール左上に突き刺さった。

 奇跡的な同点弾に日本ベンチも狂喜乱舞。

 この瞬間に日本代表の準決勝進出が確定していたのかも知れない。

「ビーチサッカーの魅力がぎっしりと詰まった好試合」

 延長に入って日本代表は右CKをFP赤熊がヘディングで落とし、これをFP奥山が右足を伸ばして押し込んだ。

 30秒後に同点に追い付かれたが、日本代表の面々にショックは感じられない。わずか10秒後である。FP赤熊が「2年前のパラグアイ大会から精度が増した」と自信を深めているオーバヘッドシュートを放つとボールは右ポストに当たってゴールイン。

 終了間際の相手FKのピンチをGK河合が好セーブで切り抜け、日本代表5ー4タヒチのスコアでタイムアップ。日本代表は、2大会連続ベスト4入りの偉業を達成した。

「ビーチサッカーの魅力がぎっしりと詰まった好試合。手に汗を握りました。勝利した日本代表に対しては、素直に『素晴らしい勝利でした』と称賛を送りたい。準決勝の相手はブラジルを5-4で下したセネガル。タフな試合が続きますが、何としても勝ち上がってビーチサッカーW杯初のファイナリストとなってもらいたい。FIFA主催のW杯とはいえ、ビーチサッカーW杯の日本国内でのメディア露出量は少なく、一般的な話題にもなっていないのが現状です。1999年にナイジェリアで開催されたワールドユースで20歳以下の若き日本代表が快進撃を続け、決勝でスペインと対戦することになった。決勝当日の昼間、電車に乗っていると『夜中にワールドユースの決勝がある。絶対に見なきゃ』といった会話が聞こえてきた。決勝に進出すればビーチサッカーも盛り上がり、国内での認知度もアップするでしょう。ビーチサッカの将来のためにも、代表選手のより一層の奮闘を期待したい」(元サッカーダイジェスト編集長の六川亨氏)

 オズ日本代表は、ロシア戦の大敗にショックを受けながらも、きちんと咀嚼して消化した上でファイティングポーズを取り、気持ちを入れ替えて決勝トーナメント初戦に臨み、そして勝利をグイっと手繰り寄せた。

 この<反動力>とも言うべきパワーが、ビーチサッカー日本代表のDNAとなれば、決して遠くない将来に世界王者のタイトルをゲットする日が来るだろう。

 28日の準決勝は、ホスト国ロシアースイス戦が現地午後6時にキックオフ(日本時間29日深夜0時)。日本ーセネガル戦は同29日の午前1時30分キックオフである。

茂怜羅オズ「これがビーチサッカー」

▽茂怜羅オズのコメント
「またまた面白い(展開の)ゲームをやってしまいました。でも、これがビーチサッカー(の魅力)です。ロシア戦で大敗しましたが、チームはもう一度、メダルを取るために勝っていくという気持ちを固めました。今日は、最初から(試合の)流れが良かった。最後まで勝利を確信していました。メダルを取りに行きます! 応援をよろしくお願いします!」

▽大場崇晃のコメント
「(同点ゴールの場面では)とにかく自分を信じて、ゴールすることだけを考えました。延長ですか? 最後の方は記憶がないですね。すべてチームのために命をかけて走り切ることだけを考えていました。これまでオズさんとか日本のビーチサッカーのために努力してくれた人のために<死んでもいい>と思いながらプレーしました。セネガルに勝って銀メダルを確定したいですね。気持ちを入れて頑張ります」

▽河合雄介のコメント
「(最後のFKの場面では)ギリギリまで(相手がシュートを打つタイミングを)見てセーブしました。これを止めたら次(の試合)に繋がると思いました。あと(山内)悠誠さんの『人生をかけてW杯に来ている』という言葉を思い出して集中しました。(ベンチのGK)宜野座さん、城田さんがサポートの声を掛け続けてくれ、それに助けられています。せネガルとは(本大会前に)練習試合をやり、互いに手の内は分かっています。勝てばメダルが確定するという気持ちで戦えば、勝てると思っています」

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